幻想の街(2)
「おーいクウゴ!そろそろ休憩にしよう!」
現場監督が俺に呼び掛けてくる。俺はツルハシを振るう手を止め、手拭いで汗を拭った。
俺は坑道の外に出ると、現場監督の魔族の男と他の炭坑夫達が、既に昼食を食べていた。俺も適当な所に腰掛け、妻が用意してくれた弁当を食べ始めた。
「お?例の奥さんの手作り弁当か?良いねぇ」
現場監督の魔族の男が俺に言ってくる。
「ええ、まぁ…」
「あんな美人な奥さん貰って、毎日弁当作って貰って、羨ましいなぁ…」
そう言って、監督はなぜかガックリと肩を落とし、その表情に影が差した。
「監督…?」
そこで、俺の隣の炭坑夫がヒソヒソと耳打ちしてきた。
「監督…結婚を前提に付き合ってた人に、この間振られたらしいんだよ、それで…」
「ああ、そういう事…」
「はいそこ!聞こえてるぞ!くそうムカついた!!お前の弁当食ってやる!!」
乱心した監督が俺の弁当に手を伸ばす。俺はそれを回避して、弁当箱を頭上に上げる。
「絶対やらん!!俺の午後の活力なんすよ!!」
そう言って俺は監督に追いかけ回されながら、弁当を平らげた。
そんな様子を見て、他の炭坑夫達が爆笑していた。
今日の仕事が終わり、足早に後片付けと帰り支度を終えると、俺は直ぐさま帰路についていた。
(お土産、何がいいかな…?)
道中、妻へのお土産を選ぶ為に、色々な店の並ぶ通りに足を運んでいた。花、菓子、アクセサリー、どれが良いだろうかと考えながら、それぞれの店頭を見て回った。
すると、俺はボロ布を被った人影とぶつかる。
「あ、すみません」
俺は謝罪するが、そのぶつかった人間は何の言葉を返さず、そのまま歩いていった。
(何だ?…まさか!?)
俺はそう思うと、ズボンのポケットを弄る。すると、入れてた筈の財布が消えていた。やられた、スリだ。
人影が路地裏へと消える。俺はその人影を追い、路地裏へと入っていった。
「おい!待て!」
そうして人影を追い掛けていると、そいつは今度は突然急に立ち止まって此方の方に振り返り、何かを投げ渡してきた。
それは、すられた筈の俺の財布だった。中身も無事であった。
「やっと見つけた…手間取らせおって」
そいつがそう言うと、纏っていたボロ布を投げ飛ばす。
そこには、大きな首輪を身に付けた女がいた。
「誰だ…?」
俺が言うと、女は露骨にムッときた様に眉をひそめた。
「まだ思い出さんか…仕方ない」
女はそう言うと、そこらに転がっていた角材を手に取り、
「ふっ!!」
それで俺に向かって殴り掛かってきた。
「なっ、何を!!」
突然襲い掛かってきたことに戸惑いながら、女の振り回す角材から身を躱していく。
「どうした!!反撃しないのか!!」
女はそう言って、更に俺へ激しく殴り掛かってくる。
「このっ…!!」
俺はツルハシに力を込め、
「いい加減に…しろっ!!」
女の持つ角材に目掛け、叩きつけた。
「!!」
その瞬間、自身の胸に何か熱を感じた。
パキンと、自分の頭の奥で、何かが割れる様な感覚が走る。
女の角材は、俺のツルハシの一撃でへし折られて吹っ飛んでいき、女もその時に生じた強い衝撃により、地面に打ち付けられるように倒された。
「あれ…?」
俺の手に握られたツルハシは、いつの間にか剣に変わっており、俺の服も仕事着から、『いつもの』服に変わっていた。
「…ディン?」
後頭部をさすりながら、起き上がろうとしている目の前の女、ディンに向けて、俺は呟く。
「やっと思い出したか。いてて…こっちは首輪で力が制限されてるんだぞ馬鹿者め…」
そう言って不満を洩らすディンの手を取り助け起こし、自分に何が起こっていたのかを、ディンに尋ねた。




