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帰還(6)

その夜、中の荷物を整理して漸く使える様になったもう一つの客室で、俺は休んでいた。


「この我を床で寝させるとは…貴様、後で覚えてろよ…」


俺が寝ているベッドの隣の床で、グランディンが横になっている。ブツブツと呪詛の様に不満を呟きながら毛布に包まっていた。


尋問の後、グランディンは俺の部屋で休ませる事にした。万が一何かする可能性がゼロではないので、俺が見張っておく必要があったからだ。


そして、それにはソニアが猛反対した。


「は、反対です!!クウゴさんが女性と同じ部屋で寝るなんて!!何かあったら…!!」


この子は一体、何を心配しているのだろうか。後、その言い方だと俺に否がある様に聞こえて、人聞きが悪過ぎる。


「ソニア、気持ちは分かるけど仕方ねえよ。仮にも腐っても魔王、クウゴが見張っておくのがベストだ」


そう言ってオーキが、むくれるソニアを宥める。


「おい小童、誰が臭い魔王だって?」


オーキの発言に対し、グランディンが一々噛み付いてくる。


「言ってねーよ。まぁ、100年熟成干物女だし、臭う、かも?」


オーキが煽ると、グランディンが再び激昂する。そんなグランディンをオーキから引き離しながら、俺は客室へ入った。


そうして今に至る。グランディンにはお情けで用意したシーツと毛布を渡し、床で寝せたのだった。


「そういえば、ちょっと前にイエグロスと会ったぞ」


ブツブツと不満を呟くグランディンに対し、俺がエルーシャで闘ったイエグロスの事を伝えると、呟くのをやめて俺の方に顔を向けてきた。


「懐かしい名だな。奴は元気だったか?」


知ってる名を聞いて、グランディンは少し嬉しそうに尋ねてきた。


「ああ、元気だったよ。エルーシャで魔族の軍を率いてた」


「そうか。それで、奴は…」


「…死んだ。俺と闘って、最期は自爆したよ」


「…そうか」


そこでグランディンは沈黙する。自身を慕う部下の最期を聞いて何を思ったのか、その表情からはそれは読み取れなかった。


「その時に、あいつこんな事を言ってたんだ「あの時程、やる気が出ない」って…」


イエグロスが言ったことを思い出し、それをグランディンに伝える。


「もしかしてイエグロスは、今のグランディンが偽物だった事を知ってたんじゃないか?だから、やる気が出ないって…」


「…」


グランディンは何も答えなかった。


あの時イエグロスは、俺が鈍っている事も看破していた。自分の世界に帰り、2年近く剣を握っていなかったのだ。その指摘通り、今の俺の強さは昔と比べてかなり落ちていただろう。


もしあの時、イエグロスが本気であったなら、俺は果たして勝てていたのか、今思うとかなり怪しかった。


「…実はあの時、我が死ぬ直前…」


ふと、グランディンが口を開き、ぽつり、ぽつりと話し始めた。


「イエグロスに念話で伝えていたんだ。我は死ぬが、いつの日か必ず蘇るとな…」


「そうか…じゃあ、イエグロスは100年も待ってたんだな。お前の事…」


「だな…」


100年間、気の遠くなる時間だ。


時間を飛び越えて100年後の世界に転移された俺と、片や100年間眠りについていたグランディン、その時間の果てしなさは、時を超えてきた俺達には到底理解し得ないものだ。


そうして待った挙げ句、現れたグランディンは偽物。イエグロスの失意も頷けるものだ。


「クウゴ…」


「何だ?」


「…感謝する、イエグロスの事、話してくれて」


それだけ言うとグランディンは、こちらに背を向けた。


俺も目を瞑り、眠りに落ちた。





三日後の朝。俺達は今、グラナへ出発しようとしていた。


「遅いぞ。いつまで待たせる気だ」


身支度に時間が掛かり工房から出てこないオーキに対し、グランディンは苦言を洩らした。


グランディンは、魔王の時のコスチュームでは無く、街で買った冒険者用の衣服を着ていた。首に着けられた無骨な首輪を除けば、一見只の冒険者に見える。


これでグランディンが、魔王であるとバレる事は無いだろう。


「落ち着けディン、オーキはお前と違って身一つで戦える訳じゃ無いんだ。準備がいるんだよ」


「む…その呼び名、まだ慣れんな…」


公然とグランディンと呼ぶ訳にはいかないので、俺は仮の名を与えた。ディン、俺達はそう呼ぶ事にした。


「それより、いいのか?これから魔族と戦いに行く訳だが、同胞と戦う事になるのは…」


元より見張っておく必要がある以上、連れてく他選択肢は無いのだが、一応訊いてみた。


「構わん。魔族同士で争うなど日常茶飯事だ。それに…」


「それに?」


「我の名を騙り、好き勝手やってくれてる奴が心底気に入らん。我を差し置き世界を統べようなどと、実にけしからん」


「ああ、そう」


ディン目線でも、偽グランディンには思うところがあった様で、俺達と図らずも利害が一致した、という訳だ。


そんな時、オーキが漸く工房から出てきた。


ディンが駆け寄り、何かオーキに言うと、オーキが何か言い返し、またディンが激怒して言い合いになった。


(勇者と魔王の共同戦線、どうなる事やら…)


その後、俺達はグラナへと出発した。

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