帰還(4)
魔物を退け、俺達は洞窟の中を進む。俺は炎の魔法で指先を灯し、先を照らしながら先頭を歩いていた。
俺に追従するソニアは、分離槍の穂先を手に持ち、後ろを警戒する。槍が振るえない狭い洞窟の中でも、ああして穂先だけ取り出して短剣として使うことができ、最低限の戦闘能力を保つ事が出来る。シンプルな発想ながら、中々に考えられた良い設計だ。
そうして洞窟内を奥へ奥へと進んでいく。そこに、それはあった。
「これは…?」
大きく開けた場所だった。そして、その中央には巨大な結晶が鎮座していた。
「く、クウゴさん…!?」
俺は結晶に近づいて、それをよく見てみると、その奥の方には何か、黒い炎の様な物が揺らめいているのが見えた。
そして、その結晶からは、どこか邪悪な魔力が常に迸っていた。間違いない、これが原因だ。これから放たれる魔力に当てられ、魔物達を凶暴化させていたのだ。
得体の知れないこの結晶、壊すか否か悩んでいたところ、俺はその異変に気付いた。
結晶の奥の黒い何かが、少し大きくなっている。そして、それは更に、徐々に、大きくなっていく。
結晶から放たれる魔力が更に強まる。そして、結晶はどこか禍々しく発光し、あちこちに罅割れていく。
「やばい!!」
俺はソニアを突き倒し、それに覆い被さる様に倒れ込む。
「きゃっ!!」
ソニアが小さく悲鳴を上げる。そして、結晶は勢い良く爆ぜた。
爆風の様な魔力の奔流が、辺り一面に吹き荒れる。俺はそれが鎮まるまで、ソニアに覆い被さった状態でじっと堪えた。
やがて魔力の奔流が鎮まると、俺はソニアの上から退いて手を差し出す。
「ごめん…大丈夫?」
「は、はい…大丈夫です。ありがとうございます」
ソニアは手を取り、俺に助け起こされる。そして、俺はその結晶が鎮座していた方に視線を向けた。
「!!」
突如、俺の身体は硬直した。
土煙の立ち上る結晶が鎮座していた場所に、何かの影が蠢いていた。そして、その影が放つ異様な魔力を、俺は知っていた。
(まさか…!!)
俺は右手に石の剣を創り出し、構える。土煙が晴れていき、その姿が徐々に露わになる。
かつて、人類と魔族の、互いの種の存亡を掛けた最後の戦いにて、俺と殺し合った最強の敵。
そして、俺が一度は殺した女が、そこにいた。
「時は来た…遂に、我は蘇った…」
「魔王…グランディン…!!」
「いかにも、我こそは魔王グランディン…魔の頂点にして、この世を統べる絶対なる覇者である!!」
魔王グランディン。かつて俺が討ち倒し、100年の時を経て復活した魔王。
まさか、こんな所で遭遇するとは思っていなかった。
「ほお…既に死んでいたと思っていたが、まさか100年後こうして出会うとはな…クウゴよ」
「そうだな…死に損ないの魔王がいるせいで、おちおち休んでいられないのさ」
そう吐き捨てて、俺は剣に魔力を込める。出会ってしまったのなら仕方ない。こいつはここで仕留める。
俺は地面を蹴り、グランディンに向かって剣を振りかぶった。
「魔王権能…爆ぜろ!!」
「!!」
俺は咄嗟に、魔力を練り上げて身体を強化する。突如、俺は爆ぜた。
魔王権能。対象となった者に命令を下し、その命令通りの事象を発現させる魔王の権能。
爆ぜろと言えば爆ぜ、燃えろと言えば燃え、死ねといえば死ぬ、抗う術を持たぬ者であれば確殺となる、グランディンの能力だ。
「く、クウゴさん…!!」
爆炎に包まれた俺を見て、ソニアが叫んだ。しかし、
「…ふぅ」
俺は軽症だった。少し火傷を負った程度で、戦闘に支障は無い。
グランディンの権能は、力量のある者であればある程度抗う事が出来る。この様に、爆破の命令を下された瞬間に魔力で強化すれば、致命傷は回避する事も可能なのだ。
「そう慌てるな…100年ぶりに蘇ったのだ、もう少しこの余韻を楽しませろ」
そう言って、グランディンが冷たい笑みを浮かべる。
再び剣を構え、いつでも攻撃出来るように備える。が、そこで俺は、ある疑問が生まれた。
「…おい、ちょっと待て。今、100年ぶりって言ったか…?」
「ああ、そうだ。100年の時を経て、漸く復活出来たのだ、これから世界を…」
「いや、おかしいだろ。お前数ヶ月前にセレニア滅ぼしたんじゃないのか?」
「何の話だ? 我は今、目覚めたんだぞ?」
なんだか話が噛み合わない。その時だった。
「うっ…!?」
突如、グランディンが額に手を当て、片膝を地面を付いた。
「しまった…魔力切れ…か?…馬鹿な…こんなに…」
そのまま、グランディンはその場に倒れてしまった。
「…きゅう」
「…は?」
完全に意識を失ったグランディンを見て、俺は素っ頓狂な声を上げた。




