帰還(1)
「3日ぁ!?」
作業机で封魔のカードに魔力を込めているオーキに向けて、俺が声を上げた。
エルーシャから帰還し、各々はそれに向けて準備をしていた。そして、オーキが準備に掛かる時間を訊き、俺は思わず声を上げてしまった。
「もっと早くならないのか?」
俺が尋ねるが、オーキは露骨に機嫌を損ねた様に舌打ちする。
「こればっかりは無理だっつーの、お前と違って、俺は戦うにしても準備が必要なんだよ」
「でも…」
「うっせーなぁ…、小遣いやっから、どっか行ってろ。暇ならソニアをデートにでも誘ってこい」
そう言って、オーキは紙幣を数枚俺によこす。俺は渋々それを受け取った。
「お前は金渡しときゃ良いと思ってる駄目な親かよ…」
「ほら、行った行った。やんなきゃいけない事が沢山あんだよこちとら」
シッシッと追い払う様な手振りを見せオーキは言うと、俺は小さく溜息をついて工房を後にした。
(一応…声掛けてみるか…)
平屋に戻ると、俺はソニアの客室にノックする。
「どうぞ」
ソニアから返事が返ってきて、俺はドアを開ける。
ベッドに腰掛けたソニアが、手に持っていたブラシの様な物で、膝に乗せたリインの鱗を磨いていた。
「それ、ブラッシング的なやつ?」
「はい。リインはこうして、鱗をマッサージするのが好きなんです」
そう言ってソニアがブラッシングすると、リインはどこかふやけた表情で寝息を立てている。成る程、確かに気持ち良さそうだ。
「ソニア、この後時間ある?」
「え?」
「オーキが準備に時間掛かるって言って工房に引きこもっちゃって、それまで俺やる事無いから街に行こうと思うんだけど…一緒に来るか?」
「…クウゴさんと、一緒にですか?」
「あ、無理なら大丈夫だから。何となく声掛けただけで…」
「行きましょう!!ぜひ、ご一緒させて下さい!!」
弾けたような笑顔でソニアが言うと、微睡んでいたリインが、その声によって目覚める。
「あ、起こしちゃった?」
ソニアはそう言うと、リインは俺の事を睨みつけ、小さく唸り声を上げた。
「いや、俺のせいか?」
「クウゴさん!あっちの店行ってみましょうよ!」
リインを肩に乗せたソニアが、心底楽しそうに俺の手を引いてくる。
「ちょ、待てって…!!」
俺はそれに引かれながら、ソニアの後を歩いていく。
街に繰り出した俺達は、ソニアに手を引かれるがまま、色々な店を見て回った。
服屋、アクセサリーショップ、道具屋、俺達2人はくたくたになるまで街中を散策した。
そして、俺達は軽食屋の店に入り、お茶をしながら一息ついていた。
「すみません、なんか私、かなりはしゃいじゃって…」
そう言ってソニアは、顔を赤らめながら、申し訳なさそうに小さく笑う。
「いや、楽しんで貰えて何よりだよ。誘った甲斐があった」
「今日は、ホントに楽しかった。こんなこと、久し振りだったから…」
「…そうか、大変だったんだもんな」
「はい…村が襲われてから、かなり長いこと逃げてましたから…」
辛い記憶を思い出したのか、ソニアの表情に影が差す。俺も、あの時の事を思い出した。
ボロボロの衣服、傷だらけの身体、そして脚まで折れていたのだ。その逃亡生活の過酷さは、想像するに難くない。
「もしあの時、クウゴさんが助けてくれなかった、こうして買い物とかを楽しめなかったです…本当に、ありがとうございます」
「ソニア…」
そうしてると、注文していたお茶とケーキをウェイトレスが運んできた。
ソニアはフォークでケーキを一口大に切り、
「クウゴさん、はい、あーん♡」
それを俺の口元に運ぼうとする。
「ちょっ…!?そういうのいいから!!」
戸惑う俺を見て、ソニアは笑った。




