エルーシャ防衛戦(4)
「お前…こんなに弱かったか…?」
俺の目の前で倒れ伏す、血濡れたイエグロスに向かって、俺が呟く。
「剣の振り方も知らなかったあの小僧が、生意気な…ふふ…」
イエグロスが血反吐を吐きながら嗤う。
最後の一撃の時、俺はイエグロスが、わざと受けた様に見えた。
というかそれ以前に、俺の知っているイエグロスなら、あんなカウンター貰わなかっただろう。
まるで、わざと俺に倒されに来た、そういう風に感じた。
「何故だかな…あの時程のやる気が、出ないのさ…」
「そうかよ…」
「それよりも小僧…貴様、鈍ってるな…?そんなことでは…『奴』には、勝てんぞ…?」
「?」
「まあいい…思えば、四魔将も俺1人になってしまった…そして、俺も、もう死ぬ…」
すると、イエグロスの身体が突如発光する。これは、自爆魔術。
(まさか…兵士を逃がしたのは…この為!!?)
「グランディン様…申し訳ございません…我が同朋よ…い…ま…」
イエグロスの身体が炸裂し、俺の視界は、光に包まれた。
「!!な、何だ!?」
凄まじい轟音が鳴り響き、俺は音の方に視線を向けた。
クウゴがいた拠点があった場所で、大きな爆発が起きていた。
「い…いゃ…ぁ…!!」
それを見たソニアの表情が、みるみる絶望に染まる。
戦場にいた魔族達も、それを見てざわつき始めた。
「あれは…まさか、イエグロス様の自爆…」
(自爆だと!!?)
魔族達の呟きを聞いて、俺は絶句した。
「ひ、怯むなぁぁぁ!!イエグロス様の死に報いる為に、戦えぇぇぇぇ!!」
1人の魔族が声を上げる。すると、他の魔族もそれに感化され、再び戦い始めた。
呆けていた俺はそれでハッと気が付き、固まっていたソニアの肩を揺らす。
「ソニア!リインを飛ばせ!おい、ソニア!」
「クウゴさん…いや…いや…!」
絶望に染まるソニアに、俺の言葉は届かず、ただ、泣きながら震えていた。
「くそっ!!」
俺はリインから飛び降り、空道で空を渡りながら魔族と戦おうとした。
その時だった。
「ヴォルテック・エア!!」
突如、戦場のど真ん中に竜巻が巻き起こる。そして、その中央には、
「イエグロスは死んだ…!!退け!!」
爆炎で身を焼かれ、血を流しながらも、その衰えない闘志を滾らせた、クウゴがいた。
エルーシャ城から出発する直前、オーキがある提案を出した。
拠点にいる敵将を討ち取った後、クウゴは早く戦場に戻らなければならない。そこで、オーキはエルーシャ王にこう進言した。
「エルーシャに魔方陣を…?」
「はい、敵将を討ち取っても、すぐ戦場には伝わりません。だから、この戦争をより早く終わらせる為にも、敵将を討ったという事実をより早くに伝える必要があります」
「だから、エルーシャに転移の魔方陣を設置すると…」
「はい、お願いします」
「…わかった、許可しよう。城内の空き部屋を一つ手配するから、それを使ってくれ」
こうして、緊急帰還魔術の魔方陣を、エルーシャ城内に設置したのだった。
(まさか、こんな形で役に立つとはな…)
イエグロスの自爆の直前、緊急帰還魔術を発動し、ギリギリでエルーシャ城に帰ることが出来た。
自爆の爆炎は少し受けてしまったが、これくらいで済んで良かった。もう少し遅ければ、俺は死んでいただろう。
「殺せぇぇぇぇ!!!」
俺が手負いと侮った魔族の兵士達が、俺に向かってくる。
俺はその兵士達に向かって、剣を振るった。放たれた斬撃波が、兵士達の足下の地面をえぐり、その足を止めた。
「もう終わった!!退け!!無駄に命を散らすな!!」
俺は吼えると、その気迫に押された兵士達が後ずさる。
「グランディンに伝えろ!!勇者クウゴは、復活した!!この国に手を出すなら、俺が許さないとな!!」
剣を前に突き出し更に吼える。魔族達は気圧され、撤退を開始した。
その光景を見て、俺は剣を下ろして、深く息をついた。
(終わった…)
そこに、俺の傍にリインが降り立つ。ソニアはリインから飛び降りると、俺に飛び付く様に抱きついた。
「クウゴさん…クウゴさん…!!」
「ごめん…心配…かけた」
俺の胸に顔を埋めて泣くソニアを抱き締め返し、安心させるようにその頭を撫でた。
こうして、エルーシャ存亡を賭けた防衛戦は、幕を閉じたのであった。




