2度目の召喚(1)
月日は流れ、俺は高校3年になっていた。
あれからは特に何事も無く、平穏な日々を送っていた。学校で勉強したり、友達と駄弁ったり、退屈だが穏やかな日常を。今もこうして、いつもの時間に家を出て、通学路を歩いていた。
だが、今でもたまに思い出す。あの、夢みたいだが、夢にしては酷く鮮明な、異世界での冒険の記憶。
あの時病院で目覚めてから、俺は向こうで使えていた魔術等の異能が全く使えなくなっていた。
それもその筈、俺の胸に刻まれていた、勇者紋が消えているからである。
勇者紋。勇者召喚の儀により召喚された勇者に刻まれる加護の証、文字通り勇者の紋章だ。
通常俺の様な、こちら側から召喚された人間には、魔術みたいな魔力を必要とする技能は使えない。魔力を生成する器官、魔臓が存在しないからだ。
勇者紋は、その魔臓の代わりとなり、異界の人間である俺に魔力を行使する力を与えてくれる。言わば、外付けの魔臓だ。
その勇者紋が失われてしまった以上、俺に魔力は扱えない。だが、その事自体は大した問題ではない。
仲間達と作ってきた大事な思い出が、無かったことになったような気がして、それが、酷く哀しく、悔しかった。
(やっぱ、夢だったのかな…?)
そう思いたくは無かったが、今となってはもう、確かめる術はない。
俺は考えるのをやめ、学校へ歩を進めた。
だがそこで、異変が起きた。
世界が、静止した。
行き交う通行人や自動車が、突然その動きを止め、俺の周りは沈黙が支配した。
「うぁっ!!?」
戸惑う俺の足下が急に沈み、落下する様な浮遊感が、俺の身体を襲う。
俺の身体が落ちていく。この感覚は、前にも体験していた。
(まさか…また!?)
行羽空吾、人生2度目の異世界転移である。




