プロローグ
人間と魔族、互いの存亡を賭けた、最後の闘いが今、終わろうとしていた。
人魔入り乱れ争う戦場より少し離れた所で、異世界より召喚された勇者である俺と、眼前の1人の魔族が斬り結んでいた。
目の前のこの魔族こそ、全ての魔族を統べる魔王グランディン。俺が倒すべき、最後の敵だ。
人類と魔族の総力戦、どうにか俺とグランディンの一騎討ちに持ち込み、今、最後の闘いが繰り広げられていた。
互いに繰り出される嵐の様な剣戟、その剣戟に身を削られ戦場に飛び散る両者の血肉、そして、
「はぁぁぁぁっ!!!」
「おぉぉぉぉぉっ!!!」
今、お互いの魔力を込めた渾身の斬撃がぶつかり合い、俺もグランディンも大きく吹っ飛ばされる。
「ぐぁっ!!」
俺は地面に剣を突き立て、倒れまいと踏ん張り、グランディンに視線を向ける。
グランディンも同様に倒れず、こちらを睨みつけていた。息を切らし、血を流し、その命の灯火は今にも潰えようとしていた。
満身創痍。しかし、それはこちらも同じ事だ。
(これが、最後の一撃…)
剣を構え直し、グランディンを凝視する。練り出した魔力を剣に込める。
お互い地面を蹴り、前へ跳び出す。文字通り死力を込めた一刀が、激突した。
「クウゴ!!」
俺の名を呼ぶ声が聞こえる。俺は振り返ると、声の主は俺の傍に駆け寄ってきた。
魔術士ハマドウ、戦場で戦っていた俺の仲間の1人だ。
「グランディンは…?」
「…終わったよ」
俺は足下に目を向けると、ハマドウもそちらに視線を向ける。
そこには、絶命し、今まさに消滅しようとしていたグランディンの死体があった。
俺の死力を込めた最後の一撃は、グランディンの命を刈り取ったのだ。そして、
「っ!!クウゴ!!」
俺はぐらつき、その場に倒れた。グランディンから受けた胸の傷から、止め処なく血が流れる。
魔王の一撃もまた、俺の命に届いていたのだ。
闘いの結末は、相討ちだった。
ぼやけた視界の先で、涙を流しながらハマドウが何かを叫んでいた。だが、よく聞こえない。
俺の視界は、徐々に暗転していき、その後途絶えた。
「…あれ?」
気が付くと、俺の視界に見知らぬ天井が映る。
俺は、どこかの一室の中のベッド上で目を覚ました。
上体を起こしてみる。ついさっきまで、闘いでボロボロに傷ついていた筈の俺の身体であったが、まるで痛みを感じなかった。それどころか、傷一つ無くなっていた。
そして、周囲を見回す。鉄枠の窓、壁に掛かっている電波時計、仄かな薬品の臭い、ここが俺の元いた世界の病院の一室のである事は、すぐに分かった。
(まさか…帰ってきたのか?)
その後、俺が聞いた話では、俺は1ヶ月以上行方不明になっていたとの事。そして、俺の家の近くの公園で倒れているのを発見され、この病院に運び込まれたそうだ。
こうしてこの俺、行羽空吾の異世界冒険譚は、唐突に幕を閉じたのだった。




