これからの事(4)
「凄い…あれが勇者の力…」
リインの上から見える、鬼神の如きクウゴの戦いぶりを見て、ソニアは目を丸くしていた。
「流石だな。これで人間側の劣勢が一気にひっくり返ったな」
俺達が到着した時点では、見た限り人間側がだいぶ劣勢の様に思えた。
しかし、クウゴが介入した途端に、その盤面は完全にひっくり返った。その圧倒的な力に、俺は息を飲んだ。
(勇者紋…いずれ俺も…)
そう思っていると、俺は戦場にある変化を見つけた。
クウゴの戦いぶりに感化され、士気を上げた人間の軍勢が進軍していくその先で、杖を携えてローブを纏った魔族の集団が魔力を練っていた。
(あれは…魔族の術士部隊か?)
「ソニア、リインの高度を下げてくれ。そして、俺の指示する方向に飛んでくれ」
「お、オーキさん…?」
「俺も戦う。この盤面、これでリーサルだ」
懐のホルダーからカードを取り出す。それに込められた、魔力を解き放った。
(あれは…!!)
魔族達を斬り伏せながら俺は、俺の遥か先にいる異様な集団に目が止まった。
黒いローブを身に纏い、その手に持つ杖に魔力を込めている。その杖先は、人間の軍勢へと向いていた。
(魔族の術士部隊!!まずい!!)
俺は術士部隊の方へ向かおうとするも、多勢の魔族達に阻まれる。
「邪魔だ!!」
そう言って俺はヴォルテック・エアを放つ。横回転の一薙ぎが、周囲の魔族達を斬り伏せる。そして、生じた斬撃の渦が、更にその周囲にいた魔族達を呑み込んでいく。
(あの距離じゃ、ディバイド・エアでも届かない、くそっ!!)
術士部隊の魔力のチャージが完了し、杖から魔術が放たれ、
「!!」
なかった。突如、どこからか降り注いだ閃光が、術士部隊の頭を穿ち、術士部隊は術を撃つことなく、パタパタと倒れていった。
「?」
ふと、俺の足下に何か紙切れの様な物が落ちてきた。それを拾い上げて見てみると、それは何か、よく分からない幾何学模様の様なものが書かれた、一枚のカードであった。
(何だこれ、カード…?)
「ソニア!今度はあっちだ!」
どこからか、オーキの声が聞こえた。
俺はオーキの声がした方へ目を向けると、リインの背の上で、さっき俺が拾ったのと同じカードを左手に持ち、右手から放つ術で次々と魔族を射殺しているオーキの姿がそこにあった。
この俺、オーキ・セレスワイズは、魔術士の名門セレスワイズの長男として生まれた、次期当主として期待される程の天才児だった。
自身の魔術の才能、それに驕らぬ努力の積み重ね、それらは周りの期待に見合ったものであったと、俺は自負している。
しかし、そんな俺にもある欠点があった。
それは、魔力を生成する為の器官である魔臓の障害だ。
俺はこの障害により、常人の1/2程しか魔力を生成できない。なので、強力な魔術が行使出来ないばかりか、ちょっと術を使い続けただけで、魔力はすぐに枯渇してしまう。
仮に何か強力な魔術を習得しても、俺自身がそれに必要な魔力を生成出来ないので、外部から魔力を調達でもしない限りは、俺はその術を使えないのだ。
つまり俺は、魔力が貧弱な魔術士なのだ。
そんな俺を憐れんだ俺の親父は、このまま術士として道を進んでも苦しむだけだと、別の道を探してはどうかと言ってきた。
しかし、俺はそれを聞き入れなかった。そんな一個の欠点だけで、俺の運命を決められるのが、たまらなく癪だった。
俺は、術士である俺を、諦めたく無かった。
それから俺は、術士として更なる研鑽を積み、今に至る。
より少ない魔力で術を使う効率化、自身の欠点を克服する魔具の開発、何でもやった。
そして、今使ってるそれらも、その過程で俺が生み出したものだ。
(魔弾…!!)
右手の指先から、一条の紅い閃光が放たれ、魔族の眉間を貫く。それを更に幾度となく放ち、次々と魔族を射殺していく。
魔弾。微量な魔力を圧縮、それを貫通力が高める為に最適な形に変え、一気に撃ち出す。
最低限の魔力に、殺傷能力を持たせる為に編み出した術だ。
そして、俺が左手に持つカード。これは封魔のカードと言って、事前に自身の魔力を込めておいて、それを好きなタイミングで解放できる、言わば魔力という水をストックする、魔力の水筒。
一枚のカードに込められる魔力量は、おおよそ魔弾十数発分。予め準備は必要であるものの、俺はこのカードが尽きない限り、俺は魔術を行使出来るのだ。
自身の少ない魔力量をやりくりする俺を見て、人々はこう言う。
『省エネの魔術士』と。




