決断(5)
「な…何だあのガキ…? 今、魔王グランディンだと…?」
「しかし、あの魔剣…それよりも、何で勇者と一緒に…?」
魔族の軍勢が動揺し、ざわざわと響めき始めた。
そして、人間側でも、
「アイツ…確か勇者だったよな…? 何で魔王と一緒に…?」
「というか…あのガキが魔王なのか…? じゃあ、今まで見てきた魔王は…?」
そのあまりにも唐突な出来事に、動揺を隠せないでいた。
「偽者が色々とやっていたみたいだが、我が本物のグランディンだ!! そして、双方の軍に聞いて欲しい!! 我らの話を!!」
ディンに続けて、今度は俺も口を開いた。
「この戦争…いや、そのずっと前から今のこの状況まで、俺達人間と魔族に争いを扇動してきた奴がいます!! このまま戦争を続ければ、ソイツの思惑通り、俺達はお互いに滅ぶまで争いを繰り返す事になります!!」
「だから!! 双方退け!! 我々は、奴の思い通りになってはならん!!」
ディンが叫ぶと、それに対して人間側から声が上がった。
「ふざけるなぁ!! 俺達人間を大勢殺しておいて、戦いをやめろだと!!? 上から偉そうに言うな!!」
「人間側も、魔族を沢山殺しただろ!!!」
「っ!!!?」
俺が睨みながらその兵士に向けて言い放つと、兵士は絶句した。
「勿論…我々魔族達も同じだ!! 我々は憎しみに駆られ、多くの人間達を殺してきた!! そして、その憎しみの連鎖を、今日まで積み重ねてきた!! お互い!!」
そして、ディンは俺の事を指差して、話を続けた。
「我は100年の時を経て再び蘇り、同じく100年振りに召喚されたこの勇者クウゴと成り行きで旅をしてきた!! そして、我々は見てきた!! 我々が戦い続けたその結果を!!
世界には、未だ多くの血が流れ、多くの憎しみが積み重なり、多くの痛みが生まれている…我は、こんな世界の為に戦っていたのでは無い!!
我は…皆と笑い合える、争いの無い世界を作りたかったのだ!!」
魔王の発言により、人間と魔族双方の響めきが大きくなる。そして、ディンは更に続けた。
「わかっている…我がこう言ってもどの口かと思うだろう…。嘗て我は、憎しみに心を塗り潰され、ただ怒りに任せて戦っていた…そして、嘗ての理想を見失っていた…。
しかし、我は見てきた!! 世界には、我と違い諦めなかった者がいたのを!!
理想を捨てず、歩み寄るのを諦めなかった者がいた!! 憎しみを堪え、乗り越えようしてる者がいた!! そして、今後の世界の為に、痛みと共に生きようとする者がいた!! そんな者達を、我は見習いたいと、そう思った!!」
(ディン…)
「だから…こんな争いはやめねばならん!! 奴の思い通りになってはならん!! 何より、奴の思い通りになるのは気に入らん!!」
ディンがその思いの丈を吐き出す様に叫んだ。しかし、
「ふざけるなぁ!! それで退けと言われて退けると思ってるのか!!」
「一番殺してきたのは、お前達二人だろうが!!」
人間、魔族、双方の響めきは更に大きく、あちこちで罵声が飛び交った。
すると、ディンが魔剣を地面から引き抜き、それを裁判長のガベルの如く下ろし深く地面に突き刺した。
その衝撃で大地は地響きを上げ、罵声の声をかき消した。そして、ディンは話を続けた。
「…確かに、貴様等の言う通りだ。我々はより多くの命を奪い、多くの憎しみを積み重ねてきた。我々二人は、今日までその憎しみの連鎖を繋げてきてしまった『当事者』達だ…そこでだ」
ディンは魔剣を引き抜き踵を返すと、人間側へ向かう。
そして、俺も同じくイリスを地面から引き抜き、魔族側へ向かった。
「…済まぬな」
すれ違う瞬間、ディンは俺に呟いた。そして俺も、
「言ったろ、考えてた事は一緒だって…」
そう、呟いた。
こうして、俺は魔族達の前に、ディンは人間達の前に出る。双方の軍達は警戒して武器を構え始めた。
しかし、ディンは魔剣を地面に突き刺し、その場に座り込んだ。
俺も、イリスを地面に置くと、その場に正座した。
その様子を見て、両軍動揺していた。
「ここまで憎しみの連鎖を繋いできた我らの罪、この魔王と勇者の首で贖おう…全ての憎しみは、我らが持って行く」
ディンがそう言うと、俺もそれに続いた。
「だけど、約束して下さい…お互い、この場は退くと…そして、人間と魔族…お互いが歩み寄る事を一考して下さい…どうか…」
これしか、思いつかなかった。俺も。ディンも。
憎しみの連鎖を繋げてきてしまった俺達の罪を贖う方法、この場の双方の怒りを収め、戦いを止める方法。
こんなやり方しか、思いつかなかった。
魔族の将が、俺の前に出て来る。そして、腰の剣を抜き、俺の首筋に宛がった。
同じく、人間側の将であったギデオンがディンの前へ。腰の剣を抜き、同じ様にディンの首に剣を宛がう。
(悪い、ハマドウ…)
魔族の将とギデオンが剣を振り上げた。俺は目を瞑った。すると、今にも泣き出しそうなソニアの顔が一瞬だけ見えた様な気がした。
(ごめん…ソニア…)
そして、俺はその時が来るのを待った。
「…?」
しかし、その時はいつまで経っても訪れなかった。
俺は恐る恐る目を開ける。すると、魔族の将は剣を下ろしていた。
同じくギデオンも、剣を下ろしていた。ディンの首はまだ繋がっていた。
「…ずるいですよクウゴ殿。こんなやり方…」
そう言ってギデオンが剣を鞘に収めた。
「…グランディン様、戦争は後始末が一番大変なのですぞ。貴女はそれを、我々に押しつける気ですか…?」
魔族の将もそう言って、剣を収めた。
「皆の者!! 撤退だぁぁ!!」
「戦争は、終わりだぁ!!」
双方の軍がその号令により退却を始めた。俺達の声が届いたのか、この場は退いてくれる様だ。
(良かった…ありがとう…)
俺はホッと息をついて、胸をなで下ろした。
最終戦争は、一先ず回避出来た様だ。
「…ケッ、白ける事しやがって…!!」
過去最大規模の闘争を見られると思っていたのに、とんだ邪魔が入った物だと、俺は苛立っていた。
まるで最高級のディナーに泥水ぶっかけられた気分だった。俺は苛立ちのあまり、その様子を映していた『窓』を足で叩き割った。
「…随分苛立ってる様子だな、アント・エアゴ」
「!!」
声が聞こえた。俺は声の方へ振り向くと、そこには、
「ここが石碑にあった、『世界の裏』か? 実に殺風景でつまらん場所だ」
「裏でコソコソやってる寄生虫野郎には、お似合いの場所じゃねーか」
「テメェ等…どうやってここに…?」
「業魔招来…!!」
魔王グランディンが、その真の姿を解放する。
「白導・威装…!!」
魔術士の少年が、白炎の衣を纏う。
そして、その両者の間には、
「…ハマドウは消える間際に、俺の勇者紋に帰還魔術の行き先を登録したんだ。それは、お前が奪ったフリクトの身体に刻まれていたマーキングだ!!」
勇者クウゴが、立っていた。
「未来の為に…お前は倒す!! アント・エアゴ!!」




