決断(3)
「な…何で?」
俺が呆けていると、ハマドウは俺に向かって指示を出した。
「話は後だ!! 早くグランディンをここに連れて僕の傍へ!! ここから離脱する!!」
「!! ああ、わかった!! オーキ!!」
俺はオーキと共に壁に埋もれたディンを引き出した。
「逃がす訳ねぇだろ…!!?」
突如、フリクトに異変が表れた。俺達に向かって来ようとしたフリクトは足が止まり、その場で蹈鞴踏む様にフラつき出した。
「ハマドウ…!! 早く…跳べ!! 俺が抑えてる内に!!」
「フリクト…済まない」
「フリクトぉ…!! 邪魔すんじゃねぇ…!!」
「ハマドウ!!」
ディンと魔剣を回収すると、俺とオーキはハマドウの肩を掴んだ。
「よし、行くぞ!!」
そして、ハマドウの転移でその場を離脱した。
気が付くと、俺達はどこか見知らぬ部屋にいた。
「ここは…?」
「ここは…僕の工房さ…うっ!!」
ハマドウはフラつき、俺がその身体を受け止めた。
「ハマドウ!!?」
「大丈夫…それよりも、聞いて欲しい事がある…クウゴ、悪いけどそこにある椅子に僕を座らせて欲しい…」
ハマドウの言う通りに椅子に座らせる。そして、丁度ディンも意識を取り戻し、ハマドウは話を始めた。
「見ての通り…フリクトは取り憑かれている…今まで僕の中にいた…あの黒い霧に…」
話しているハマドウはどこか苦しそうであり、その顔には汗が止め処なく流れていた。
「おい…お前本当に大丈夫なのか?」
「僕の事は良い…あの黒い霧の正体は、遙か昔からこの星に住み着き、この星の生命達に闘争を齎す為に暗躍し続けてきた存在…名を、『アント・エアゴ』と言う…」
「アント・エアゴ…?」
「『不和の名を持つ獣』『闘争を齎す者』…奴を知る昔の人々は、そう言った名で世界各地の文献や石碑に記していた…その殆どは、奴によって消されたらしいが…」
「それどこかで…グラナの石碑!!」
俺は思い出した。グラナの坑道にてイストンが発掘しようとしていた石碑に、その名が記されていたのを。そして、
「『不和の名を持つ獣、地に降り立つ時、闘争の種火は灯された。気を付けろ、奴は未だこの世界の裏で嗤っている』…師匠はこの文章を、こう推察してます…人間と魔族の争いは、この不和の名を持つ獣によって引き起こされたのではないかと」
その後ルクスブルグで出会ったフラクタが、こんな事を言っていた。
「じゃあアイツが、人間と魔族の争いの元凶って事か…!!?」
「ああ…そもそも魔族とは、アント・エアゴが自身の力を与えた人間達が、代を経て変化していった者達…魔族とは奴によって作られた種族なんだ…」
「何だと…!!?」
ハマドウの語る魔族のルーツの話を聞き、ディンは驚愕した。
「フリクトも同様だ…彼は、生まれたばかりの頃に奴に力を与えられた…言わば、魔族のルーツとなった人間と同じ力をね…そして、彼が世界を憎む様に扇動し…魔王となる様に仕立て上げた…」
「…つまりフリクトは、人生丸々をそのアント・エアゴに利用されたって事か?」
「ああ…それも全て、世界に闘争を齎す為に…」
「マジかよ…」
そのあまりの衝撃的な事実に、俺達は閉口した。俺達は人間と魔族の争いを無くす為に戦ってきたが、その元凶たる存在のスケールの大きさに、とても理解が追いつかなかった。
「随分詳しいじゃねえかアンタ。それも、アイツがアンタの中にいたからか?」
オーキが尋ねると、ハマドウは頷いた。
「そうだね…身体を共有したからか、奴の事は全部わかるのさ…」
「何で…何でソイツはそんな事すんだよ? 何が目的なんだよ?」
「奴に…理由は無い。強いて言えば、『楽しい』からだ…奴は、人々が争う姿を見るのが大好きなのさ…」
「なっ…!!?」
そのあまりのふざけた理由に、俺達は絶句した。
「ふざけんな!! じゃあフリクトは、アイツの楽しみの為に、人生滅茶苦茶にされたってのかよ!!!」
俺が怒りのあまり声を上げると、ハマドウは頷いた。
すると、ハマドウの身体が突然『薄く』なり始めた。
「ハマドウ!! 身体が…!!」
「そろそろ時間みたいだ…僕は、この星の記憶の中にあるハマドウの記憶から復元された、奴がこの世界で行動する為に用意した仮の肉体だ。だから…用済みの僕は、もうじき消える…」
「そんな…!!」
「クウゴ…手を…」
ハマドウが震える右手を出すと、俺はその手を握った。
「頼む…奴を…アント・エアゴを止めてくれ…奴が居る限り…世界から、争いは消えない…」
「…わかった」
俺はハマドウの手を強く握り、頷いた。
「それとオーキ君…この工房に、ルクスブルグから持ち出した勇者召喚の儀の資料がある。事が済んだら、クウゴを元の世界に返してあげてくれ…頼む」
「ああ、任せてくれ」
オーキが頷くと、ハマドウは笑みを浮かべ、再び俺を見た。
「それじゃあ、クウゴ。そろそろお別れだ…済まな…か…」
ハマドウの姿はどんどん薄くなり、そのまま消え失せた。
「ハマドウ…」
まだハマドウの温もりの残る手を強く握り、俺は友の名を呟いた。




