決断(2)
グランディンを殺さない事に決めた俺は、グランディンを治療し、これからの事について話し始めた。
「そう言う訳で、戦争を止める為にはお前の声が必要だ。グランディン、招集した兵達を退かせてくれ」
「…わかった。通達しておく」
俺の話を驚く程に素直に聞いて頷くグランディン。その様子を未だ訝しげな表情でディンとオーキは見ていた。
「…なぁクウゴ、ホントに良いのか? コイツを信用しても」
オーキがヒソヒソ俺に耳打ちしてくる。
「ああ、信じるって決めたからな…ごめん」
「いや、お前がそれで良いなら俺は良いよ…お前はずっと悩んでたんだな。この世界に来てから、ずっと…」
「うん…ディンもごめんな」
「…ふん」
俺が謝ると、ディンは苦笑しながらこう言った。
「実に甘ったれた貴様らしい答えだったな…だが、我は良いと思ったぞ。我も見習わなければな、憎しみを乗り越えると、決めたのだから」
「ディン…」
「んじゃ、取り敢えず通達はグランディンに任せるとして、俺達は三国に報告行くか」
「そうだな…そういえば、グランディン。一つ聞いて良いか?」
「…何だ?」
「お前の名前教えてくれないか? グランディンが二人もいるとややこしいしな…何て名前なんだ?」
「俺は…フリクトだ」
「そうか…フリクト、これから戦後色々やる事があると思うが、お互い頑張っていこう。よろしくな」
俺が右手を差し出すと、フリクトは少し躊躇いながらも、俺と握手を交わした。
「まさか…こうして勇者と握手を交わすとは思っていなかったな」
「俺もだ」
フリクトが苦笑を浮かべると、俺も釣られて笑ってしまった。
こうして、俺達の戦いは終わった。最終戦争は回避される。
筈だった。
「あーあ、すっかり絆されやがって…チョロすぎだろおめぇ」
「!!?」
俺達は声のした方を振り向く。そこには、
「ハマドウ!!?」
オーキが殺した筈の、ハマドウが立っていた。
「なっ…!! 何で生きてんだよ!!? 確かに焼き尽くした筈だろ!!?」
「ああ、あれ? 確かにヤバかったよ。だから炎が回る前に身体を一部切り離して逃げたんだよ…こんな風にな」
ハマドウがそう言うと、自身の右手首を左手で掴んだ。
すると、ハマドウはそのまま自身の右手を引き千切った。
「!!?」
そして、そのまま手首を繋げると、元通りくっついた。
「な…何だよアレ? 人間なのか?」
その様子を見て、オーキは唖然としていた。
「ここまで『再生』するまで時間掛かっちまって、やっと出てこれたぜ。ったくおめえの炎ホントおっかねぇぜ」
そう言って忌々し気に吐き捨てるハマドウ。しかし、どこか様子がおかしかった。その口調や立ち振る舞いからして、明らかにハマドウのものでは無かった。
「お前…誰だ? ハマドウじゃないな?」
「誰でも良いだろそんなの…それよりも代われ、選手交代だ」
ハマドウはそう言うと、その身体から突然、黒い霧の様な物が噴き出した。ハマドウの身体は、そのまま意識を失って倒れた。
「な、なんだぁ!!?」
「こ…これは!!?」
黒い霧を見て、オーキとディンが目を丸くした。そして、
「!! フリクト!!?」
黒い霧はフリクトを覆い、そのフリクトは霧の中で藻掻き出した。
「ぐおおおおおおっ!!!!?」
霧が晴れる。そして、そこにはどこか邪悪な笑みを浮かべたフリクトが立っていた。
「…フリクト?」
「さぁて、まずは…」
すると、フリクトの姿が突然消えた。そして、
「お前から死ね」
オーキの目の前に急に現れたフリクトが貫手を繰り出し、その手先がオーキの眼前に迫っていた。
「オーキ!!」
俺は咄嗟にオーキを引き寄せ、床に転がした。
オーキの顔があった場所にフリクトの腕が通り、その衝撃波は遠くの壁を貫いた。もし躱さなかったら、オーキの頭は貫かれていただろう。
「フリクト!! 何すんだ…まさか!!?」
「誰かが取り憑いてる様だな。誰かは知らんが関係ない…業魔招来!!」
ディンが業魔招来で力を解放すると、そのまま魔剣で斬り掛かった。
「死なん程度に痛めつけてやる!!」
しかし、ディンの一刀はフリクトに指二本で止められた。
「何っ!!?」
「邪魔すんじゃねぇよ、ガキが」
フリクトがディンの首を掴むと、そのまま振り回してぶん投げて壁に叩きつけた。
「がはっ…!!?」
「ディン!!」
ディンは吐血し、その身体は壁にめり込んだ。業魔招来が解け、そのままディンは動かなくなった。
(馬鹿な…!!? 業魔招来中のディンが、こんなあっさり!!?)
今のディンは、嘗ての力を全て取り戻している上に業魔招来で真の力を解放していた。
そんなディンをここまで容易く捻じ伏せるとは、その力に俺は驚きを隠せないでいた。
「んじゃ、次はお前等だ」
フリクトは気が付くと、俺とオーキの背後にいた。
全く見えなかった。転移魔術かと思ったが、魔力の起こりを全く感じなかったから、それは違うとわかった。
単純に、スピードが速すぎたのだ。
俺達が振り向くと、フリクトが両手を翳していた。そして、
俺達の目の前で、光が爆ぜた。
「…驚いた。用済みの『抜け殻』が意思を持つなんてな」
気が付くと、俺達はディンが埋もれてる壁の傍にいた。そして、
「二人とも、無事か?」
「ハマドウ!!?」
ハマドウが目の前にいた。俺達を転移魔術で、フリクトの攻撃から逃がしてくれたのだ。




