↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/148

決断(1)

「なっ…!!?」


俺の言葉を聞いて、オーキとディンは絶句した。


そして、ディンが俺に詰め寄り肩を掴んできた。


「クウゴ!! 貴様本気か!!? 此奴を見逃すと、そう言うのか!!?」


「…ああ。ここでこうしてコイツと話すまでは悩んでたけど、今、決めた」


俺はそう言うと、グランディンに視線を戻した。


「お前…何のつもりだ…? 俺を殺さない…だと?」


「ああそうだ。今こうしてお前と話してわかった。お前も…憎しみに囚われてるんだってな」


「クウゴ…貴様」


「俺は100年前…この世界に召喚されて、人々に頼まれて魔族と戦ってた。それが、平和への道だと信じてな…


でも、その100年後の世界に来て、世界は相変わらず争いがあって、新たな痛みと憎しみが生まれ続けていた…それは、争いを捨てなかった俺達『当事者』の責任だ」


再びこの世界に来て、俺はずっと悩んでいた。100年前、俺はどうすれば良かったのか。そして、俺はこの戦いの果てでどうすれば良いのか。


あの時は見えなかった物を、今回の旅の中でこうして見ていきながら、俺はその答えをずっと探していた。


そして、俺はその答えを漸く見つけた。


「今、この場でお前の憎しみに目を瞑れば、それこそ100年前の繰り返しだ。仮にも魔族の長のお前を、怒りに任せて殺せば、魔族達の怒りは消えず、また多くの禍根を残す事になる…例えお前が偽者の魔王でもな」


俺はそう言って、イリスを鞘に収めた。


「だからグランディン…俺はお前を殺さない。この言葉は戦いに勝たないと言えなかった。だから俺は、ここまで戦ってきたんだ」


「…何故だ?」


「?」


「何故、許せる? 俺はお前の女を殺した…なのに何故だ!! 大事な者を奪われて何故許せる!!? お前にとって、あの女はその程度のものだったのか!!!?」


グランディンががなり立てる。それを聞いたディンもオーキも顔に怒りを顕わにし、今にも殺しに掛かりそうな剣幕だ。


そして、痺れを切らしたディンは、俺の前に出た。


「貴様!!」


ディンがグランディンの髪を掴み無理矢理起こすと、魔剣を振り上げた。そして、


「ごふぅ!!」


俺はディンが魔剣を振り下ろす前に、グランディンを顔を殴り付けた。


「許す訳ねぇだろ!! お前の事!!」


抑えていた怒りが漏れ出し、俺は思わずグランディンを殴り倒してしまった。そんな俺を見て、ディンもオーキも固まっていた。


「お前は…ソニアを殺した!! それだけじゃねぇ、お前の所為で多くの人間も、魔族も死んだ、俺はお前を一生許すつもりはねぇ…!! だけど!!」


俺はグランディンを睨みつける。そして、こう言った。


「だけど、決めたんだ!! この痛みも、憎しみも、乗り越えて行くって!! これからの…この先の世界で、俺や、お前みたいな奴を生み出さない為にも、俺はお前を殺さない!! 俺は、この痛みと共に生きていく!!」


ソニアを失った時、俺は悲しみと憎しみにより強い痛みに苛まれ、悶えた。もう二度と味わいたくないとさえ思った。


しかし、それと同時に、この痛みを誰にも味わって欲しくないとも思い、俺は決断した。


俺は、この痛みと共に生き、これからの世界で痛みを生み出さない為に生きると。


誰かの為に、この痛みに耐え続けて生きると。





意味がわからなかった。この目の前の勇者の事が。


何故、そこまで出来る。何故、他者の為にここまで堪えられる。


人は醜い。他者を理解しようとせず、他人など知った事かと平気で傷つける。俺が今まで見てきた奴等は皆そうであり、俺は嘗てその事に絶望した。


しかし、この男はそんな奴等とは違っていた。他者を理解しようとする事を諦めず、その言動はどこまでも他者の為だった。


本当に、この男は人間なのだろうか?


「お前は…人間なのか…?」


思わず俺の口に出た問いに、クウゴは頷いて答えた。


「人間だよ。借り物の力が無ければ何も出来ない、導いてくれる人が居なければ戦う事も出来ない、そして…誰かが手を引いてくれなければずっと自分を責め続けてる、只の人間だ」


「…お前にもう一つ聞きたい、俺は今まで嘘を言ってるのかも知れないぞ? それでも、信用出来るのか? 俺の言った事を信じれるのか?」


「信じるよ。だって俺は…勇者だからな、人も世界も、お前の事も諦めたくない。だから、お前から零れた痛みの声を俺は信じるよ」


「!!」


クウゴの言葉を聞き、俺は思い出した。父と母の記憶を。


城の人間や街の住人達から俺の力を気味悪がられ、俺は孤独感に苛まれていた。そんな俺を愛してくれた父と母に問うた事があった。何故、自分を愛せるのかを。そして、


「お前を信じてるからだよ、フリクト」


両親達は、そう答えてくれたのだ。


「…そうか、そうだな。お前みたいな人間もいるんだったな」


そう言うと、俺の口からは自然と笑みが零れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。