失意の底で(5)
次の日、セレスワイズ邸に跳んだ俺達は、ハウレン達剛剣隊も含めこれからの事について話し合った。
「まさか…こうして剛剣隊と組む事になるとはな…」
俺がハウレンを見て言うと、ハウレンも俺の方に視線を向けてきた。
「勇者…まさかグランディン様と旅をしていたとは。貴様には色々と思う所もあるが、今は水に流そう。イエグロス様とこの世界の為にも…」
「んじゃ、顔合わせも済んだ事だし本題に入るか。まず、偽グランディンについてなんだが…俺の見立てでは、多分アイツは最終戦争には出て来ない」
オーキがそう言うと、続けてその理由についても説明した。
偽グランディンの目的は、この世界に闘争を齎してこの世界を無茶苦茶にする事。なので、人間と魔族の怒りを最高潮にして戦争を引き起こせれば、それで目的が達成となる。
なので、目的が達成すれば自分自らが手を下す必要は無いという訳である。
「つまり、このまま戦争開始まで待っても偽グランディンは出て来ない。戦争が始まっちまったら手遅れって事だ」
「だから…それまでに偽グランディンを見つけなければならないって事か」
「そういう訳だ…そこでハウレン、アンタに頼みたいのは偽グランディンの根城までの手引きを頼みたい、大丈夫か?」
「ああ、我が手引きする。それとオーキ殿、頼みがある…」
ハウレンがそう言うと、他の剛剣隊の隊員達に視線を向けた。
「奴の下への手引きは我一人で行う。残りの隊員達は、ここに残させて欲しい」
「副隊長!! 何を…!!」
ハウレンの言葉を聞いた隊員達が響めく。
「我の所為で、多くの隊員達が犠牲になってしまった。これ以上はイエグロス様に申し訳が立たない、だがら…」
ハウレンがそう言うと、グランディンがハウレンの後頭部を叩いた。唐突に叩かれた為、ハウレンが動揺する。
「グランディン様!!? 何を…!?」
「昨日から、我らの間で俺の所為とか我の所為とか言うのは禁止になった。だから貴様も口には気を付けるんだな」
「?」
「ぷっ」
その様子を見た俺とオーキは、小さく笑った。
ハウレンの案内で、俺達はグランディン達の本拠地に来ていた。
「…まさか、イストンの里以外にもこんな隠れ里があるとはな」
ハウレン曰く、100年前の戦争終結後、魔族達は人間側の掃討作戦によって住処を追われ、海を隔てた別大陸にその住処を移しているという。
しかし、全ての魔族が別大陸に移った訳では無く、中にはイストンの里の様に隠れ里を作り、人間に知られない様に生活している魔族達も各地にはいるという話だ。
また、それらの里にはそれぞれ転移魔術の魔方陣が設置してあり、それらは里間での移動に加えて別大陸からの侵攻ルートにもなっている。
時折見られていた魔族達の神出鬼没な侵攻は、これが理由という訳だ。
そして、俺達は素顔を隠し、そんな隠れ里の一つに来ていた。
「…こちらです」
ハウレンが指し示すと、その場所に石造りの大きな建物があり、その中央には転移の魔方陣が設置されていた。
「ここから、奴の拠点に跳べます。さぁ、中へ」
俺達は建物に入り魔方陣の中に立つ。そして、ハウレンが魔方陣を起動した。
すると、俺達はグランディンのいるらしき拠点の城に辿り着いた。
「私の受けた通達では、戦争に向けて全軍召集が掛けられています。だからここには今誰も居ない筈、オーキ殿の見立て通りであれば、恐らく奴以外は…」
そうしてハウレンは、俺達の前に出て歩き出した。
「!! ハウレン、下がれ!!」
ディンが檄を飛ばし、俺達も下がった。しかし、ハウレンは反応が遅れてしまった。
「…え?」
ハウレンの心臓には、深々と杖が突き立てられていた。
「駄目じゃないか、ハウレン…こんな真似しちゃ」
声の方を振り向くと、そこには、ハマドウが居た。
そして、ハマドウが右手を前に翳すとハウレンに突き立てられた杖が消え、そのハマドウの右手の前に現れた。
「がふぅ…!!」
ハウレン吐血し、身体は脱力してその場に崩れ落ちた。
「ハウレン!!」
ディンがすぐさま駆け付け、その倒れたハウレンの側に来た。
「ぐ…グランディ…ン様…私が死んだら…隊員達の…事…」
「わかったから…クウゴ!! 今すぐ回復を…!!」
ディンが言うと、俺はすぐにハウレンの下へ駆け出す。しかし、ハウレンはその前に絶命し、身体は忽ち霧散した。
「くそっ…!!」
遣る瀬ない気持ちに苛まれたディンは、歯を食いしばりながら地面を殴り付けた。
「ハマドウ…!!」
「やれやれ、ここまで来られるとはね…仕方ないから、僕が相手をしよう」
ハマドウが言うと、俺とディンは構えた。しかし、
「クウゴ、ディン、お前等は先に行ってろ…」
俺達の間に、オーキが割って入った。
「ハマドウは俺が引き受ける。お前等は手を出すんじゃねぇ」
「オーキ…」
「前に約束したろ…俺を、信じろ」
「…ああ!! 行くぞ、ディン!!」
「ハウレン…済まん、貴様の為にも、我は行く…!! 小童、死ぬなよ!!」
俺とディンは踵を返し、グランディンの下へ向かうべく駆け出した。
「行かせないよ」
ハマドウが魔術を放とうと魔力を錬る。
「白導・威装…!!」
オーキがそう言うと、ハマドウの術が放たれた。速さと範囲を兼ね備えた、雷の魔術だ。
しかし、それは、
「なっ…!!」
一瞬にして、燃え尽きた。蜘蛛の巣の様に広がって襲い掛かってきた雷の網は、その『白い炎』により俺らに触れる事無く焼き尽くされたのだ。
そして、そこにいたオーキにも異変が起こっていた。
オーキはいつの間にか、白い炎を衣の様に纏っていたのだ。
「アンタの相手は俺だハマドウ…今の俺は、あの時とは違うぜ!!」
オーキはハマドウを睨みながら、中指立ててみせた。




