失意の底で(3)
それから俺達は、各地にある魔方陣を敷いた場所を全て回っていった。
しかし、その何れにもクウゴの姿は無かった。
「クウゴの奴…どこ行ったんだ?」
「あの馬鹿者が…!!」
そう吐き捨てるディンの顔は険しかったが、俺にはそれが今にも泣き出しそう見えた。
そうして俺達は今、ルクスブルグ領内の空を飛んでいた。
そして、そうしてるとディンは、
「!! チャッピー、ここで降りろ!!」
と、地上で何かを見つけたのか、チャッピーに指示を出して降下させた。
「どうした? ひょっとして、クウゴが?」
「いや違う、あれは…」
そうしてチャッピーが着陸すると、そこには、
「貴様…!! 何者だ!!」
と、数人の魔族の兵士達がおり、俺達に気付くや否や武器を構えた。
「貴様等…やはり剛剣隊の連中か」
「剛剣隊?」
「こないだイストンの里を襲撃した部隊…嘗てイエグロスが率いていた部隊だ」
ディンが俺にそう説明すると、その剛剣隊の部隊長らしき魔族がディンを見て、ハッと何かに気付いた様な顔をしていた。
「き、貴様!! あの時の小娘か…!!?」
「確か貴様は、副隊長のハウレンとか言ったな? ここで何をしている? まさか…また里に襲撃か?」
「…いや、違う。我々は…」
ハウレンがそう言うと、構えた武器を下ろして俯き、他の部隊員達も同様に武器を下ろした。
「我々は…魔王軍を、抜けたのだ」
「は?」
我々剛剣隊も、先日のルクスブルグ侵攻に参加していた。
そして、ルクスブルグの制圧が完了し、魔王グランディンより撤退命令が下された。その時だった。
「ハウレン副隊長!! 大変です!!」
「どうした?」
命令に従い、国を出ていた我に一人の剛剣隊の隊員が駆けつけて報告してきた。
「それが…他の部隊の中で命令を無視して必要以上の破壊行為に及ぶ者が多数出ているとの事で…」
「何だと!!?」
人間への怒りに駆られた一部の魔族達が、その憎しみを晴らさんとして、必要以上にルクスブルグを蹂躙していたのだ。
その怒りはわからなくも無いが、だからと言って必要以上に破壊し傷付けるのは違うと思った。それに何より魔王への命令無視だ、これは許されない事だ。
「すぐに連れ戻せ!!」
「わ、わかりました!!」
そうして我は部隊員達に命令を下し、数名だけ残して暴れている他部隊の魔族を連れ戻させた。
そして、その時それは起こった。
「…滅界七星」
魔王の力により現れた『星』が、ルクスブルグに落ちた。
そして、そこにいた人間も、暴れていた魔族も、その魔族を止めようとした剛剣隊の隊員達も、全て消し飛ばされた。
こうして、我々剛剣隊は我と数名の隊員達を残し、その犠牲となってしまったのだ。
「…そうして我々は疑問に思ったのだ。平気で同胞までも手に掛けるグランディン様は、本当に魔族の事をお考えなのかと…」
「だから…魔王軍を抜けたって事か」
俺がハウレンに問うと、ハウレンが小さく頷いた。
「…あの偽者が望むのは闘争だ。奴にとって人間や魔族がどうなろうとどうでも良いのだ…前に奴自身がそう言っていた」
イストンの里で相対したディンが、偽グランディンについて語った。すると、
「偽者…やはりそうか。だからイエグロス様はあの時、あんな事を…」
「? おい、どういう事だ?」
「…我々剛剣隊が、グランディン様が復活したという話を聞き、一番喜ばれていたのはイエグロス様であった。しかし…」
「…貴様、何者だ?」
「イエグロス様…?」
グランディンと対面して直ぐさま、開口一番にイエグロスが凄い剣幕で言い放った。
「何者…? グランディンだと言ったのが聞こえなかったのか?」
「ふざけるな!! 貴様、あろう事かグランディン様の名を騙るとは…!!」
「100年経っても、守れなかった小娘にご執心か…随分と女々しい者なのだな、四魔将とは」
「貴様…!!」
イエグロスが怒りを露わに腰の剣を引き抜いた。そして、グランディンも剣を取り出して目の前に翳した。
まるで、自身の剣をイエグロスに見せびらかせる様に。そして、
「な…!!? なぜ、それを…!!?」
グランディンの剣を見ると、イエグロスは明らかに狼狽しており、その表情に驚きが隠せないでいた。
「彼がその『魔剣』を持っているという事は…つまり、そう言う事だよ」
突然、グランディンの後ろから声が聞こえた。そこには、いつの間にか仮面を付けた魔術師がいた。そして、その仮面を外し素顔を晒した。
「久し振りだね、イエグロス」
「その声は…ハマドウ!!? 馬鹿な…!! あれから100年、只の人間の貴様が何で生きている!!?」
「僕の事はどうでもいいさ…それよりも、彼女が持っている筈の魔剣を彼が持っている…後は、言わなくてもわかるだろ?」
「くっ…!!」
「良かったね、イエグロス…君はまた、『魔王』の為に剣を振るえるよ」
魔術士はそう言って、邪悪に笑みを浮かべた。イエグロスは、ただ怒りに震えて黙り込んでいた。




