失意の底で(1)
セレニア城周辺の山岳地帯にあるその山頂付近の開けた場所、俺が前ソニアと共に来たこの場所に、俺達はソニアとリインの遺体を埋葬した。
「これで良し…と」
オーキは用意した墓標に、魔術でこう刻んだ。
『竜操手ソニア・ルフィード 享年15歳 その伴竜リインと共にここに眠る』
「…情勢が落ち着いたら、もっとちゃんとした奴を作ってやるからな」
「成る程、これが『墓』という物なのか…」
ソニアの墓標を見て、ディンが何か意味深な表情で呟いた。
「魔族には墓は無いのかよ?」
「無いな。魔族は死ぬと死体は残らんからな、一説では、その所為で墓を作るという習慣そのものが廃れていったんじゃないかと言われている」
「じゃあ、魔族は死者に祈らないのか?」
「そんな訳あるか。祈るなら、墓なんて無くても出来る」
「それもそうか…」
「だが…こうして死後、目に見えて残る形で何かを残せるのは、少し羨ましいな。我ら魔族は、死ねば何も残せないから…」
そう言うディンの声色と表情に、少し悲哀が籠もっている様に感じた。
「…それにしてもクウゴ、何でこんな場所なんだ?」
「…」
ソニアの墓前で一人黙り込んでいた俺に、オーキが質問を投げ掛けてきた。
「…ここはソニアの、お気に入りの場所なんだ…」
「…そっか」
俺が問いに答えると、オーキはそれだけ返し、黙り込んだ。
そして暫くの間、俺達はソニア達の冥福を祈り、黙祷を捧げた。
ソニアの埋葬が終わり、俺達は拠点の街に戻ってきていた。そして、俺は買う物があった為、クウゴとディンに先に平屋に戻って貰った。
「おう…来たよ」
「オーキ!! 随分久し振りだなぁ!!」
俺が馴染みの道具屋に入ると、店主の親父が声を掛けてきた。
「ああ…そうだな」
「何か元気ねぇな…何かあったのか?」
「まぁな…」
「そうか…そう言えば話は代わるが、ルクスブルグが落とされたんだとよ。というか…消し飛んだと」
「消し飛んだ…?」
「ルクスブルグがあった場所が、穴だけ残して消えたんだとさ。おっかねぇ話だ」
恐らく、偽グランディンが放った滅界七星による破壊痕だ。
いくら強化勇者が何人いようと、アレを喰らってしまえば一溜まりも無い。
ともあれ、強化勇者によって力を付けてきていたルクスブルグを壊滅させた事で、魔族側は更に勢いは増していくだろう。
「なんか最近、周りもどこかピリついてる気がするな…戦争でも起きるんじゃねえか、こりゃ」
「…どうだろうな」
こうして俺は店主との話を切り上げ、買い物を済ませて平屋に戻ってきた。
食卓にはディンだけおり、腕を組んで座っていた。そして、俺の帰りに気付き、こちらに視線を向けてきた。
「クウゴは?」
俺が訊くと、ディンは首を横に振った。
「戻ってくるなり、客室に入ってずっと出て来ない…」
「…何か早まった事はしてないだろうな?」
「偶に部屋を覗いてるが、ベッドの上にうずくまってただジッとしてるだけだ…」
「…そうか」
俺は買った物が入った紙袋をテーブルに置くと、食卓に腰掛け、深く溜息をついた。
「…何で、こんな事になっちまったんだろうな…?」
思わず言葉が零れた。そして、ディンは、
「…我の所為だ」
と、ポツリと呟いた。
「我が…あんな下らん呪いに掛かった所為だ…そうすればクウゴは、あんな無茶しなかった…ソニアも…我の所為で…!!!」
手に爪が食い込み、血が滲むまで拳を握りながらディンは悔恨の言葉を述べていく。俯き気味のその顔には、激しい自責の念が見て取れた。
「やめろ!! それ言ったら俺だって、もっと早くに帰れてればこんな…そもそも修行に出るなんて言い出さなきゃ、こんな事には…!!!」
俺は思わず叫んだが、すぐに言葉が詰まらせ、自身の顔を俯かせた。
「…やめようぜこういうの、無駄だからよ」
「…そうだな」
そして俺達二人は黙り込み、室内には暫し沈黙の時が流れた。




