これからの事(1)
「それじゃあ行きます。しっかり捕まってて下さい」
「おお…って、うおおおおおっ!!?」
勢い良く飛翔し始める飛竜リイン、その背に乗っている俺は、思わず変な声を上げる。
それを聞いていたソニアがクスクスと小さく笑う。それを見て俺は少し恥ずかしくなった。
「それじゃあソニア、さっき言ってた方角に飛んでくれ」
俺と違って平然としていたオーキは、淡々と指示を出す。リインは爆発的に加速し、オーキが指示した方角に向けて飛び立った。
しばらくすると、小さな街が見えてきた。オーキが「あれだ。降ろしてくれ」と言うと、リインは停止して、街の近くに降り立った。
ここが、オーキが拠点としている街のようだ。
「この街はセレニア侵攻の際に、戦火を免れた街の一つでな。ここに住処兼工房を持ってるんだ」
俺達はリインから降りる。突如、リインの身体が淡く発光した。
リインの巨躯はみるみる内に縮んでいき、やがて、ソニアの肩に乗る位の小さな姿に変化した。
これが竜操手の技能の一つ、契約した竜の小型化だ。これで竜を小型化して、街の中でも連れ歩く事が出来る。
日常生活を常に竜と共にある竜操手にとって、これは必須技能である。
俺達は街に入り、そのオーキの住処に向かった。
道中、街の店で俺やソニアの衣服を購入した。その代金は全て、オーキが支払ってくれた。
「すみません、私まで…」
「いいって。元々コイツの装備を何とかするって約束してたしそのついでだ。俺も帰りは楽できたから、そのお礼代わりさ」
そうして、買い物しながら住処へ向かう。到着した時には、既に日は暮れていた。
オーキの住処兼魔術工房は、路地裏を抜けた先の、街の端の方にあった。
一見木造の古めかしい一階建ての平屋であり、大きな食卓のあるリビング、簡素ながら客室が二つ(一つは物置になってた)、最低限料理は出来そうな小さい厨房、この世界では特にこれと言って特徴は無い、普通の家だ。
しかし、一つだけ違いがあった。
リビングで食事を摂って一息ついた後、俺達は家を出て、その裏手に回った。
そこに小さな物置小屋がある。しかし、そこには殆ど荷物は置かれていない。
「これをこうすると…ほい」
オーキが小屋の真ん中の床板を触り、取っ手の様な物が引き出される。そして、その取っ手を引っ張ると、その床板が開いた。床板の下は、階段がある。
「ここが俺の工房だ。行くぞ」
オーキが階段を下っていき、俺とソニアもそれについていく。
階段の先には、住処の平屋以上に広い一室が見えた。
作業台代わりの机、簡易的なベッド、魔術関連の書物が収まった本棚、俺も名前もわからない様な魔具の類らしき道具の並んだ棚、かつて俺が見たことあったハマドウの魔術工房にも、負けない位の立派な工房だった。
「…ねぇ、クウゴさん、オーキさんって何者なんですか…?」
ソニアがひっそりと俺に耳打ちする。
「魔術学校の学生、らしい…」
一介の学生が、なぜこれ程の魔術工房を所有してるのか、正直疑問に思う。本当に何者なのだろうかと、俺は思った。
「取り敢えず、そこに椅子があるから適当に掛けてくれ」
オーキは自分の机から椅子を引き出し、その椅子に掛ける。俺とソニアも、部屋の隅にあった椅子を取り出し、それに腰掛けた。
「それじゃあ始めようか。これからの話だ」




