暗黒の時代(5)
俺は剣で飛竜の爪を弾き飛ばすと、すぐさま洞の中へ飛び込んだ。そして、洞の奥にいる少女に対峙する。
年齢は、自分よりも少し下くらい。ボロボロの衣服から覗く血の滲んだ包帯、折れたと思しき左脚に着けられた添え木代わりの木の枝、見るからに重症といった様子だ。
「こ…来ないで…!!」
恐怖に引き攣った表情で少女が言うと、俺は安心させようと、出来る限り柔らかな声色で話しかける。
「大丈夫…安心して、俺は敵じゃない」
俺はそう言うと、魔力を練り出して、集中する。
これから少女に向けて、回復魔術を行う。回復魔術は、傷の具合を把握して、それに合った適切な治療を行っていく。
先程、五感を極限まで研ぎ澄まされた感知能力により、少女の負傷箇所は全て把握出来ている。直ぐに治療可能だ。
俺は少女に近づき、治療を開始する。まずは、身体の刀傷2箇所。そこまで深くは無かったが、このままこんな不衛生な場所では、破傷風等の感染症の恐れがあり危なかった。
続いて、左脚の骨折だ。魔力により折れていた骨を繋ぐ。
「あ…あれ?」
治療が終わると、少女は突然痛みや傷が全て消え失せた事に困惑した表情を見せた。
「うっ…」
俺は急に立ち眩みを感じ、その場に膝をついてしまう。回復魔術により、魔力を使い過ぎてしまったようだ。只でさえ魔力を多く消費する回復魔術に、それを更に超える消費量の他人の治療、勇者紋の魔力を以てしてもこのざまだ。
「おい、大丈夫か?」
それを見た、オーキが駆け寄り問い掛けてくる。
「ああ、問題無い。それより…君、ちょっといいか?」
俺は少女に向けて言う。
「あの竜、恐らく君のだろ?ちょっと怒らせてしまったみたいなんでな、怒りを治めて欲しいんだ」
「リイン…ごめんね。もう、大丈夫だから…」
少女はそう言って、頭を擦りよせて来た飛龍をそのまま抱き締める。
少女の言葉により飛竜の戦意は治まった。そして俺達は、互いに事情を話し合う。
少女ソニアは、このセレニアの近隣の村出身であり、竜を操る竜操手であった。
その村が、魔族の侵攻にあって滅ぼされ、相棒の飛竜であるリィンと共に、命からがらこの場所に逃げてきたのだ。
深傷を負っていたソニアは洞の中に身を隠し、リィンはソニアを守る為に、周囲の外敵と思しき者に攻撃を加えていたのだ。
それが、俺達が攻撃された真相だったのだ。
「ありがとうございました。お二人には、何とお礼を言ったらいいか…」
そう言って、ソニアは深々と頭を下げる。
「俺は何もしてないけどな。全部コイツのお陰だよ」
オーキが俺を指してそう言うと、ソニアは俺の方を向き、俺の手を握る。
「本当に、ありがとうございます。本当に…」
ソニアは涙ぐみながら頭を下げる。助けられて、本当に良かった。
「にしても、良く気付いたよなお前。あんな離れた場所に竜の飼い主がいるなんて、なんか気付く切っ掛けでもあったのか?」
「…オーキの言葉を思い出したんだ。それで、なんか色々考えちゃって、そしたら、何か原因があるんじゃないかと思ってな」
「俺の?なんか言ったっけ俺?」
「…まぁ、いいや」
人は理由無く怒りはしない、それは人以外の動物も同じ事だ。そして、それは魔族も。
今思えば、前の旅の時は、俺は色々余裕が無かったこともあり、それが見えてなかった。
だからあの時の俺は、敵を倒す事しか、考える事が出来なかったのだ。
俺は再び、勇者としてこの世界に喚ばれそして、旅に出た。
この旅で、あの時とは何か違う物が見えるようになりたい。俺は、そう思った。




