暗黒の時代(4)
「…おい、大丈夫か?」
地に伏すオーキに向かって、俺は手を差し出す。
「ああ、何とかな。いてて…」
オーキは俺の手を取り立ち上がる。
崩れ行くセレニア城内を、俺とオーキは必死に走り抜け、どうにか崩落前に抜け出せていた。
しかし、ハマドウの工房は崩落により完全に埋まってしまい、もう調べる事が出来なくなっていた。
「うげ、やっぱりあいつか」
オーキが視線を上に向けて言葉を漏らす。それを聞いた俺は、オーキの視線の先に目を向けた。
俺達がいる上空に、何かがいた。巨大な体躯と、それに負けない位大きな両翼。その何かがこちらを見ながら、上空で旋回していた。
(魔物…いや違う、飛竜か?)
飛竜が上空から高度を下げてくる。そして、
「!!」
こちらに向けて、口から炎弾を放ってきた。
俺とオーキはすぐさま跳び退き、炎弾から身を躱す。
先程まで俺達がいた場所に炎弾が炸裂し、忽ち大きな火柱が上がった。
間違いない、先程の衝撃の正体はコイツだ。コイツが俺達に向けて攻撃してきたんだ。
「おい、あれ何だ?何で俺達を攻撃する?」
石の剣を構えながらオーキに問い掛ける。
「知るかよ。ここ来る道中にもアイツに何度も襲われたんだ。全く、やり過ごすのに苦労したぜ」
「…余計なちょっかいを出したって事は?」
「そんな無駄な事しねぇよ!!」
飛竜が更に炎弾を放ってくる。俺は剣に魔力を込め、迫り来る炎弾に向けて、剣を振るった。
その剣技は、受けた攻撃を特殊な剣裁きにより流し、受けた攻撃の威力を上乗せして放つ応じ技。
そして、勇者紋からの莫大な魔力により強化された俺の剣技は、物理攻撃に限らず、魔術による攻撃さえ跳ね返す。その技の名は、
「アゲインスト・エア!!」
俺の剣により、炎弾の軌道が変わる。そして、俺の斬撃波を伴ったその炎弾が飛竜に向かっていき、直撃した。
炎弾を浴びた飛竜が落ちてくる。その巨躯が叩きつけられ、大きく地を揺らす。
「GYAOOOOOO!!!!」
しかし、飛竜の戦意はまだ失われていない様子だ。血走った眼をこちらに向け、咆哮する。
「やる気満々だなぁ…。どうする?一思いにやっちまうか?」
そう言うと、オーキは自身の魔力を練り出し、戦闘態勢に入る。
俺も、剣を構え直す。しかし、この剣をこのまま叩き込むか、俺は悩んでいた。
俺は先程の、オーキの言葉を思い出していた。
「人と魔族って、昔から争ってたんだろ?お前が最初に召喚された時よりずっと前から。1番の原因は、そこだろ?」
「人間と魔族が仲悪い限り、傷付き、傷付けられ、そういうのが繰り返されてるってだけだ。今も、昔も」
このまま倒す事は出来る。しかし、本当にそれでいいのか?
このまま、力で捻じ伏せる方法で、本当に良いのだろうか?
胸に燻る迷いに対し、俺は葛藤する。
飛竜が再び、炎弾を放つ。俺はそれを再びアゲインスト・エアで受け、飛竜に向けて返す。
炎弾は飛竜に向けて飛んでいき、再び直撃し、
「!? おい、何やってんだよ!!」
なかった。炎弾は飛竜の真横に逸れ、崩れ残っていたセレニア城の城壁に直撃した。
俺は剣を下ろし、勇者紋から魔力を練り出し、集中した。
魔力による身体強化を、感知能力に全振りして行った。五感が研ぎ澄まされていき、そして、見つけた。
「オーキ!!こっちだ!!」
「え?お、おい!!?」
俺が走り出すと、オーキもそれに追従して走り出した。そして、飛竜も飛び上がり、俺達を追ってくる。
「GYAOOOOOO!!!!」
追従する飛竜の炎弾が雨の如く降り注ぐ。俺達はそれを掻い潜りながら、門に向けて街中を駆け抜けた。
そして、それに近づくにつれ、攻撃はより激しくなる。
思った通りだ。城下町を抜けて森の中の、その場所に辿り着くと、俺は踵を返して飛竜に向き合う。
飛竜は一気に高度を下げると、その右腕の爪を振り下ろす。俺はそれを剣で受け止める。
「オーキ!そこの洞の中だ!」
「な、何だってんだよ一体…?」
オーキは俺の指示に従い、その洞の中に入っていった。
何で飛竜がこちらに敵意を向けてくるのか、ずっと疑問に思っていた。
何か原因があるんじゃないかと、そう思い俺は全力の感知能力で探り、それで見つけたものから、俺にはある疑念が生まれていた。
そして、それは今、確信に変わった。
「え!?こいつは…!?」
「ひっ…!?だ、誰ですか…!?」
見るからに深傷を負った、少女がそこにいた。
飛竜は、この少女を守るために、俺達を攻撃してたのだ。




