魔誕の日(2)
それから、僕は行く宛も無く彷徨い歩いた。
城から逃げ出し、指名手配されているルクスブルグには居場所は無く、僕はすぐさまルクスブルグの街を出て別の街を目指した。
拾ったボロ布で顔を隠し、安全な場所を求める彷徨い歩く。飢えを凌ぐ為、ある日は泥水を啜り、またある日はゴミを漁り、どうにかその命を繋いでいった。
時に、他の浮浪者や街の住人に暴力を受ける事があった。傷はすぐ治るし、痛みは耐える事が出来た。それよりも僕は、まるで汚い物を見るかの様に僕を見てくる、あの眼が辛かった。
僕からしたら、そんな周りの人間共の方が、よっぽど汚く見えた。
「オーキ、待ちなさい!! そんなに走ったら…!!」
「今日は調子が良いから大丈夫だよ、母さん」
「ははは、今日はオーキは元気だなぁ」
僕が路地裏の物陰に身を潜めていると、大通りから声が聞こえた。
見てみると、そこには僕よりも少し歳下の男の子と、その両親らしき男女二人が、仲睦まじい様子で通り過ぎていった。
それを見て、僕は父と母の事を思い出した。そして、
「う…うぅ…!!」
涙が溢れ出た。
何でこんな事になったのだろう、何で父と母が殺されなければならなかったんだろう、何でその罪をなすり付けられなければならなかったんだろう、何でこんな辛い目に合わなければならなかったんだろう。
僕は只、皆に認めて貰いたかった、それだけだったのに。
「いたいた、こんな所に居たんだ」
すると、僕の背後から声がした。僕は恐る恐る、後ろを振り向いた。
そこには、牢屋で見たあの仮面の男が立っていた。
「僕と一緒に、来ないかい?」
仮面の男、ハマドウはそう言った。
数年後、ハマドウの工房にて。
「…調子はどうだい? フリクト」
ベッドの上に寝ている俺に、ハマドウは伺ってきた。
「…ああ、問題ない。凄く良い気分だ」
俺の身体には、多くの魔族の中から選りすぐった、強力な魔族の血肉を多量に取り込ませていた。
ハマドウ曰く、今の俺の力は嘗ての魔王の側近、四魔将達にも引けを取らないという。
「いよいよ三日後、セレニアを落とすよ。当初の予定通り、それまでに各地に身を潜めている魔族達を集めよう」
「ふん…今の俺ならあんな国、一人でも落とせると思うが?」
ベッドから身体を起こし、俺はそう吐き捨てると、ハマドウは分かってないなと言わんばかりに頭を横に振った。
「こういうのは数が多い方が良いんだよ。人間達に恐怖を植え付けるには…ね。一人の魔族より、魔族の軍勢の方が、インパクトがあるだろ?」
「…そうだな」
「まずはイエグロス達の部隊に声を掛けてみよう。魔王が復活したと触れ込めば、きっと飛んでくるだろうさ、彼なら」
「主の死後も、死に損なった四魔将か…さぞ不様な男なのだろうな」
音に聞くそんなイエグロスの醜態を、俺は嘲り嗤った。
「それじゃあ、これを」
ハマドウはそう言って、一本の剣を俺に差し出した。
「僕が戦後回収しておいたんだ。これで幾分ハッタリは効くだろう」
「ふん…」
俺はハマドウが差し出した剣、魔剣ジオ・グランディンを手に取った。
「君は今日から、こう名乗るんだ…魔王グランディン」
こうして、俺達は各地で燻っていた魔族共を取り入り、セレニアを攻め落とした。
そして世界には、100年の月日を経て、魔王グランディンが復活したと瞬く間に拡がった。




