魔誕の日(1)
五国暦666年火の月の66日、僕はルクスブルグ城にて生まれた。
名は、フリクト・ルクスブルグ。ルクスブルグ王の第一子として生を受け、多くの者にその生を祝福され、健やかに成長していった。
その僕の物心が、付くまでは。
「…」
僕が城の廊下を歩くと、僕の側を城の使用人や従者達は一礼し、足早にその場を立ち去ってしまう。
そして、その視線はいつも、どこか気味悪い物を見る様な、冷たい眼をしていた。
僕には生まれつき、人ならざる力を持っていた。その怪力は軽々巨岩をも持ち上げ、多少の傷なら瞬く間に勝手に治癒されてしまう。
まるで魔族の様だと、城の者も街の住民も陰で言っていた。人よりも優れた聴覚を持つ僕は、その陰口が聞こえてしまった。
そんな中に晒される僕は、その居心地の悪さと孤独感に、常々思っていた。
自分は、生まれるべきでは無かったのだと。
僕に愛を注いでくれるのは数少ない、僕を愛してくれるのは父ルクスブルグ王と、生んでくれた母だけである。
そして、父はいつもはこう言うのだった。
「フリクト…人間とは弱い者なのだ。自身との違いに恐怖し、排除しようとする、世の中から差別や争いが無くならないのはその所為だ。
しかし、それで見限ってはいかん。大丈夫…お前が他者の為に頑張り続けていけば、きっと皆も認めてくれる筈…」
こうして僕は、父の言葉を信じ、人の為に日々努力していった。
こうして月日が流れ、僕も10歳になった。
その頃には既に、剣の腕では城の兵士達を圧倒出来るまでになり、勉学についてはあまり得意では無かったが、それでも自分なりには頑張っていた。
父と母は、そんな僕を良く褒めてくれた。とても嬉しかった。
あの日が、来るまでは。
ある日、父に呼び出された僕は、父の部屋に足を運びその扉をノックした。返事は無かったが、僕はそのまま部屋の扉を開けた。
「父上、入ります。話とは一体…」
そして、その目の前の光景に、僕は目を疑った。
「!!? 父上!!? 母上!!?」
その胸の傷から、止め処なく血を流しながら床に倒れる父と母の姿がそこにあった。そして、その傍らには凶器であろう、僕が普段剣の訓練で使っていた剣が、血塗れて転がっていた。
「で、殿下…!!? 一体、何を…!!?」
声の方を振り替えると、そこには大臣がいた。そして、
「だ、誰かぁ!! 誰か居るかぁ!!! 殿下がご乱心だぁぁ!!!!」
顔面蒼白の大臣が叫び、忽ち城の兵士達がこの部屋に押し寄せた。
僕は、父と母を殺した罪をなすり付けられ、幽閉された。
「…」
牢に囚われてから、幾日が経過した。
僕がどれだけ違うと言っても誰も聞いてくれなかった。顔を合わせる者皆に「いつかやると思ってた」とか「呪われた王子」だとか、好き放題言われ、只々時間だけが流れていった。
そしてある日、僕の処刑が決まった。
そんな時だった。
「君…このままだと死ぬけど、それで良いのかい?」
目の前に、仮面で顔を隠したローブ姿の男が現れた。そして、その男が鉄格子越しにこう言った。
「もし…それが嫌なのなら、そのまま前へ踏み出してみると良い。そうすれば、君は自由だ」
男がそう言うと、僕は座っていた石畳から立ち上がり、男の言う通りに一歩、前へ踏み出した。
そして、いつの間にか僕は、城の外に居た。




