風凪ぐ時(3)
クウゴ達がここを出て、大分経った。我は相変わらず呪いに苛まれ、苦しみ悶えていた。
「はぁっ…はぁっ…」
息苦しい。身体が痛い。
先程クウゴが言った通り、我にはもう時間が無かった。そう遠くない内に、我は、死ぬ。
(済まない…イエグロス…皆…我も其方にもうすぐ行きそうだ…)
すると、我が寝ていた客室のドアが開き、誰かが入って来た。
顔を向けるも、もう視界がぼやけて良く見えなかった。呪いに蝕まれた所為か、もう目も碌に見えなくなっていた。
すると、その誰かは右手を我に向け翳した。
「…今、楽にしてやる」
その誰かが言うと、突然我の身体は白い炎に包まれた。
「これは…!!」
身体の痛みが消えていく、苦しかった息も次第に苦しくなくなっていく、そして、ぼやけていた視界が鮮明になっていく。
炎が消えると、我を苛んでいた呪いは消え失せ、痛みも苦しみもまるで感じなかった。
「気分はどうだ?」
ハッキリした我の視界には、良く知る男の姿がそこにあった。
「よっ」
「小童!!」
オーキが、帰ってきたのだ。
実家で修行を終えた俺は、なるべく早くに拠点の街に帰りたかった。そして、学校の知り合いの竜操手が居たのを思い出し、その男が住んでいる学生寮に立ち寄っていた。
しかし、その男が中々見つからず、探していたら結局通常通りに拠点に向かった場合と同じくらい時間が掛かってしまった。
そして、俺が帰りつくとクウゴとソニアは居らず、ディンは何故か呪いに苦しんでいた。俺は即座に聖なる炎で呪いを焼き尽くした。
明らかに只ならぬ状況と察し、俺はすぐディンに事情を聞いた。
「じゃあクウゴ達は、偽グランディンの軍勢に乗り込んでるってのか? イリスをお前に預けて」
「ああ!! すぐにクウゴ達の下に向かうぞ!!」
「向かうって、どうやって行く気だよ!? 俺を送った知り合いの竜操手はもう帰っちまったぞ?」
「問題ない、秘技・幻召魔身!!」
ディンがイストンの里で使った秘技を使用する。そして、イエグロスとは違う魔族の幻影が現れた。
「外に出ろ!!」
ディンはそう言って、その魔族の幻影と共に平屋を出て行く。俺も後に続いて出て行った。
「フェレス、チャッピーを頼む」
「チャッピー?」
すると、その魔族の幻影が両手を前に翳し、その前方に何かが少しずつ姿を現していった。
そして、その全容が明らかになる。そこには目も覆いたくなる程の醜悪な怪物がいた。
「きんもっ!!!?」
俺は思わず声を上げた。
「よし、早く乗れ!!」
ディンがそう言ってその怪物、チャッピーに跨がる。しかし、俺はその怪物に強い忌避感を覚え、跨がるのを躊躇った。
「…これ、触ったら被れたりしない?」
「するかっ!! いいから早く乗れ!!」
こうして俺達は、チャッピーの背に乗ってルクスブルグに向かった。
「はぁっ…はぁっ…」
「ふふふ、どうやらあの剣でも完全には呪いを防げて無かったみたいだね」
「くっ…!!」
やはり、この苦しみの正体は呪いだった。あの時俺も、ディン程では無かったが呪いに掛かっていたらしい。
そして、今イリスはディンの呪いの進行を抑える為にディンに預けている。その結果、イリスの無い俺は自身の呪いが進行してしまい、こうして症状が出ているという訳だ。
「ディンの呪いを解く方法を教えろ、ハマドウ!! さもないと…斬る!!」
「何度も言わせないでよ…自分で掛けた呪いを解く方法を教える訳無いだろう? それに斬るって、本当に斬れるのかい?」
「黙れ…!!」
俺は地を蹴り、ハマドウに向かっていく。しかし、その間に偽グランディンが割って入って来た。
「どけっ!!」
俺は偽グランディンに剣を振るう、が、
「ふん」
グランディンの魔剣の一振りで、俺の剣は叩き折られた。そして、
そのまま袈裟に、俺は斬られた。
「がふぅ…あ…!!」
身体の力が抜け、俺は地面に崩れ落ちる。
肩から胸にかけて斬られた傷から、血が止め処なく流れる。そんな俺を、偽グランディンは冷たい眼で見下ろしてくる。
「これで勇者は死に、人間側の敗北…残念だったね、クウゴ」
淡々と告げるハマドウの声が聞こえる。そして、偽グランディンが魔剣を振り上げた。
「ライズ、『竜息』!!」
「!!」
突如、偽グランディンが立っていた場所に、一条の熱線が迸った。偽グランディンは飛び退き身を躱した。
「クウゴさん!!」
ソニアの声が聞こえた。先程のは、ライズで強化したリインの吐息だった様だ。
そして、リインが俺の身体をその両腕で掴むと、そのまま飛び立った。
「あーあ、行っちゃった。どうする? グランディン」
「…滅界七星」
リインが飛び立った後、偽グランディンが小さくそう呟くのが聞こえた。
そして、『星』が、落ちてきた。




