風凪ぐ時(2)
拠点に戻った俺は、すぐさまソニアに偽グランディンがルクスブルグに進軍してる事を伝えた。
「…ソニア、ディンの様子は?」
「相変わらず、苦しそうです…」
「…そうか」
ディンを寝かせている客室に入る。相変わらず顔色は悪く、息も荒い。苛む呪いが確実にその命を蝕んでいるのが目に見えてわかった。
イリスを抱きかかえて無ければ、その呪いは瞬く間に回り、やがて死に絶えるだろう。そして、このままでも、やがてその命は尽きるだろう。
もう、時間が無かった。
「…ソニア、ルクスブルグに行こう。そこでハマドウに呪いを解かせる」
「く、クウゴさん!! 本気ですか!?」
今進軍中の偽グランディンの部隊の中に、もしハマドウが同行していれば、そこで呪いを解く方法を聞き出せるかもしれない。
何より、このままではディンが死ぬ。猶予はもう無かった。
「もう時間が無い、ディンは…絶対に死なせては駄目だ。あの偽グランディンを倒した後、魔族の王として魔族を導かなければならないんだからな…」
今のディンは、嘗ての憎しみに支配された残虐な魔王ではない。憎しみを乗り越え、平和を求める魔族の王となり得る存在になりつつある。
これからの世界で、人と魔族が手を取り合える世界を作っていく為にも、絶対に死んではならないのだ。
「イリスは、置いていく…ディン、待っててくれ」
「クウゴさん…」
「大丈夫、やばくなったらすぐ逃げるから…」
そして、俺はイリスの代わりに前に使っていた普通の剣を腰に差した。
「…馬鹿者が、止めろ…」
息絶え絶えに、ディンが小さく呟いた。
俺達はリインに乗ると、拠点を立ってルクスブルグに向けて飛翔した。
ルクスブルグに向けて暫く飛んでいると、それは見えてきた。魔族の軍勢、そしてその中には、
「いた、グランディンだ」
その軍勢の真ん中に、偽グランディンの姿があった。しかし、その周りを見渡すが、ハマドウの姿はどこにも見当たら無かった。
しかし、ハマドウはいつも後から姿を現していた。偽グランディンと交戦していれば、きっと後から出て来るだろう。
「じゃあ、行ってくる…ソニアは帰っててくれ」
俺はそれだけ伝えると、リインの背から飛び降りた。
「クウゴさん…死なないで!!」
魔族の軍勢に斬り掛かるクウゴを確認すると、ソニアを乗せたリインはその場を離れた。
「ヴォルテック・エア!!!」
軍勢のど真ん中で死の風が吹き荒れ、魔族達を斬り刻んでいく。俺は偽グランディンのいる場所目掛けて、魔族達を斬り伏せながら軍勢の中を突っ込んでいった。
「来たか…勇者!!」
俺の姿に気付いた偽グランディンは乗っていた馬から飛び降りると、そのまま携えていた魔剣を構え俺に向かってきた。
そして、俺達は互いに渾身の一刀をぶつけ、そのまま鍔迫り合った。
「…今お前の相手をしてる暇は無いんだよ、ハマドウはどこにいる?」
「何だ、俺が目的では無かったのか?」
「うるせぇ!! 時間が無いんだ!! ハマドウはどこだ!!」
そうして互いの剣をぶつけ合い、嵐の様な剣戟がその場に吹き荒れた。周囲の魔族達は圧倒され、俺達に近付けないでいた。
しかし、
(!!? な、なんだ…!!?)
突然、自分の身体に何か異変を感じた。息が苦しく、身体が重い。
そして、そう思っていると俺は、偽グランディンの剣圧に押されて吹っ飛ばされた。
「ぐあっ!!!」
「どうした? そんなものか?」
「ぐっ…!!」
転がされた俺は、剣を地面に突き立てて、それを支えに立ち上がった。
(おかしい…まだそんなに戦ってないのに…まさか!!?)
「ふふ、随分苦しそうだね」
声の方を振り向く。そこには、目的の人物が、立っていた。
「ハマドウ…!!」
「お望み通り、出て来てあげたよ、クウゴ」
冷たく嗤っているハマドウが、そこに居た。




