風凪ぐ時(1)
野営地からディンを抱えて出て来た俺は、三国の部隊を撤退させ、今拠点の街の平屋に戻っていた。
「クウゴさん、これって…」
「…ヴォルカの街の時と同じ呪いだ」
客室のベッドに寝かせたディンは、その相当な苦しみに苛まれてるのがわかる位に顔色が悪く、呻き声を上げながら悶えていた。
「う…うぅ…!!」
ディンには今、鞘ごとイリスを抱えさせている。しかし、イリスの調和の力が働いているにも拘わらず、その苦しみが和らぐ気配はまるで無かった。
(呪いの力が、イリスの力を上回っている…?)
「ど、どうしましょう…このままじゃ、ディンさんが…!!」
「ふ、ふふ…いらん世話だ、ソニアよ…」
ディンはそう言うと、その苦しみを押してソニアに笑みを見せてくる。
「ディン!!」
「何て顔、してるのだ、クウゴ…我は、この位で…うぅ!!」
「わかったから、寝てろ…!! ソニア、オーキの所に行こう。オーキなら何とか出来るかも知れない」
オーキは以前、黒イリスの呪いを解く際に、アイオーンの聖なる炎を使ってその呪いを焼き尽くした事がある。今回も、それを使えばディンの解呪も可能かも知れない。
「わかりました!! ディンさん、行って来ますね!!」
こうして、俺とソニアはセレスワイズ邸に向けて帰還魔術で跳んだ。
「おお、クウゴ君。良く来たね」
セレスワイズ邸のエントランスに跳ぶと、ウィンリッヒが出迎えてくれた。
「ウィンリッヒさん!! オーキは?」
「オーキ? オーキなら、修行を終えて昨日出発したが…?」
「何ですって…!?」
オーキは既に屋敷に居なかった。修行を終えるや否や、少しでも早くに俺達と合流したいと思い、昨日の明朝屋敷を出たとの事。
各地に設置している帰還魔術の魔方陣は、俺の勇者紋と同期させた俺専用の魔方陣だ、オーキ一人では使用できない。
そして、オーキ側からこちらへの連絡手段を持たない為、オーキは自分で帰るしか無かったという訳だ。
「何かあったのかね?」
「…ディンが、呪われました。それも、イリスでも解呪出来ない位の呪いです」
「何だと…!!?」
「もう解く手段は、オーキの聖なる炎しかありません…ウィンリッヒさん!! オーキは陸路とか海路とか、どうやって帰るか何か言ってませんでしたか!?」
「…いや、済まない。何分あの子も慌てて居たのでね、特に帰る手段については話して居なかった。まさかこんな事になるとは…」
「そんな…」
「例え陸路にしても海路にしても、出発したのは昨日だ。もう、近くには居ないだろう…」
その後、セレスワイズ邸を出た俺達は麓の街や港、オーキが立ち寄りそうな場所を粗方探した。
しかし、結局オーキの姿はどこにも無かった。
「…」
「…」
俺達は平屋に戻り、オーキの帰りを待つ事にした。
為す術無く、ただ時間だけが過ぎていく。そして、そうしてる内に、3日が経っていた。
俺はソニアを平屋に残し、アイオーンに向けて跳んだ。
あの合同作戦後、三国は協力してグランディンの拠点の捜索を行っていた。その進捗確認の為だ。
「クウゴ!! 丁度良い所に!!」
魔方陣の部屋から出るや否や、リタ王女が俺の側に駆け付けて来た。
「丁度良いって…まさか、グランディンの居場所が…!!?」
「いえ、そうでは無いんですが…実は、魔族の軍勢がルクスブルグに向けて進軍してると情報が入りました」
「ルクスブルグに?」
「そして…その中には、グランディンの姿もあったと…」
「!!」
俺はそれを聞くと、すぐに拠点に向けて帰還した。




