暗礁(3)
昨日の会食の後、飛び出したソニアは客室に引き篭もり、その日は一度も出て来なかった。
そして次の日、俺達は拠点の街に帰ってきていた。
「…」
「…」
平屋のリビングにて、俺とソニアはただ無言で食席に座っていた。あれからずっと、ソニアは一言も喋らなかった。
気まずさに耐えかねたディンは、「貴様が何とかしろ」と俺に言い残して、そそくさと街に繰り出していった。
「…あのー、ソニアさーん」
「…」
俺が声を掛けるも、ソニアはただムスッとしているだけで返事を返してくれない。俺は思わず溜息を付いた。
(…さて、どうしたものか)
その場を離れる訳にもいかず、完全に手詰まりだった俺。
「…私だって、わかってますよ」
「おおぅ!!?」
そして、唐突にソニアが口を開いたので、俺は驚いて思わず口から上擦った声が出た。
「リタ王女が、そんな事思ってないのも、魔王を倒すにはクウゴさんの力が必要なのも、だけど…」
ソニアは膝の上に置いた両の拳をキュッと握り締め、俯きながら話し続けた。
「それでも…許せなかったんです、クウゴさんの事をあんな風に言った兵士の人達も…それを良しとしてる様に見せ掛けてる、クウゴさんも…」
「ソニア…え? 俺も?」
「そうですよ!!」
ソニアはそう言って席を立ち、俺に詰め寄ってきた。
「もう怒りました!! クウゴさんには今日一日、私に付き合って貰います。さあ!!」
「お、おい、ソニア!?」
俺はソニアに手を引かれて立ち上がり、そのまま平屋を出た。
俺達はリインに乗り、そのままソニアの目的とする場所に向かっていた。
「ソニア、どこに行くんだ?」
「私の、お気に入りの場所です」
俺の問いに対しソニアはそれだけ返した。すると、俺達は旧セレニア城周辺まで来ていた。
「見えてきた、あれですよ」
ソニアはそう言って、山岳の方を指差した。その中には、山頂付近に開けた場所があった。
その周囲は切り立った崖になっており、飛竜にでも乗ってないと来る事も叶わないであろう。
そんな場所に俺達は降り立った。
「へぇ…こんな場所があったのかぁ」
「私の住んでた村がこの近くで、良く来てたんです。ほら、あそこが私の村…今は焼け跡しか無いですが」
ソニアの指した方には確かに村の跡があった。侵攻から幾日が経った今でも、未だ人の住んでる形跡は見られない、荒れ放題の有様であった。
そうしてソニアは、地面に座り込んだ。俺もその隣に座り、そこから見える景色を見渡した。
「…良い景色だな、ここ」
「でしょう? 私、ここから見える景色が好きなんです」
山頂近いこの開けた場所は、セレニア城周辺を一望出来、正に絶景だった。そして、心地良い風が吹いていて、実に快適であった。
「…私、ここには落ち込んでた時に良く来てたんです。お母さんに叱られたり、友達と喧嘩したり、何だか上手く行かなくて行き詰まった時、こうしてここで気分転換に来てました」
「そっか…確かにそれには良い所だな、ここは」
「でしょう? ふふふ」
ソニアは得意気に笑ってみせた。
しかし、暫くしてその表情には影が差し、ソニアは俯いてしまった。
「…ソニア?」
「…私があの時リタ王女にああ言ったのには、もう一つ理由がありました。それは…クウゴさんにはもう、戦って欲しくなかったからです」
俯いていたソニアの顔から、ポロポロと涙が零れ膝を濡らしていた。ソニア、泣いていた。
「私が見てきたクウゴさんは、いつも辛そうに戦ってました…強くても、それ以上に優しくて…だけどその所為でいつか壊れてしまいそうで…それでも、自分が勇者だからと…自分に言い聞かせて…」
「ソニア…」
「そういう訳には行かないのは分かってます…だけど、だから、辛かった…クウゴさんは自分にはそれしか出来ないからと、言ってるみたいで…だから、私は!!」
ソニアがそこまで言うと、俺はそっとソニアを抱き締めた。
「…ごめん、そんな風に思ってたんだな。俺馬鹿だから、そんな事、まるで考えて無かったよ…」
「本当ですよ…クウゴさんの…バカ…」
そうして、ソニアは俺の胸の中で、一頻り泣いた。やがて、泣き止んで幾分落ち着くと、ソニアは顔を上げた。
「クウゴさん…死なないで下さい。自分の事、蔑ろにしないで下さい…」
「…ああ、わかった。もう、懲りたよ」
「…なら、許します」
ソニアはそう言って、朗らかに笑った。




