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呪いを解く白炎(1)

実家に帰り、俺は母ラピスに修行を付けて貰っていた。


そして、今やっているのは、


「く…おぉ…!!」


リンゴを焼いていた。


正確には、掌の上に載せたリンゴに炎の魔術を使い、その皮だけを焼き尽くそうとしていた。


しかし、これがかなり難しいのだ。


「くそっ…また失敗だ」


掌の上のリンゴは焦げだらけであり、皮もまだ所々に残っていた。これでは駄目である。


そしてその隣には、ラピスがそんな俺を眺めており、俺がそうして焼き続けた大量のリンゴが盛られた籠から一つ手に取り、それを囓った。


「ほらほら、続けなさい。そろそろ焼きリンゴも食べ飽きてきましたよ」


「けっ…!!」


モシャモシャとリンゴを食べながら煽ってくるラピスに苛立ちながら、俺はひたすらリンゴを焼き続けた。


なぜこんな事をしてるのか、それは昨日まで遡る。





俺は実家に帰るや否や、ラピスを呼び止めて事情を話した。


「あの大魔術士、ハマドウと戦った…?」


「信じられねぇかもだがそうだ。素顔も見たし、何よりあの実力、間違いなくあの伝説のハマドウだった…」


「…貴方がそこまで言うのなら、間違いないんでしょうね」


「それで…アンタに修行を付けて欲しいんだ。俺が知りうる中で、ハマドウの次に強い魔術士はアンタだ。だから…アンタの全てを俺に叩き込んで欲しい」


セレスワイズ家現当主、ラピス・セレスワイズ。


俺の母である彼女は、若い頃から勇猛な魔術士として名を馳せており、その武勇伝は世界各地でも良く知られていた。


その実力と血の気の多さから、魔術士の間では『歴代最も血腥いセレスワイズ』『惨劇の魔女』等と言われ、多くの悪党共を震え上がらせたと言われていた。


ケンカっ早さはともかくとして、その実戦経験の豊富さは確かであり、現代の術士の中では間違いなく最強クラスであった。


「…事情はわかりました。ですが、まず言っておきます」


「?」


「オーキ、貴方は私の目からしても、技術面的には充分優れた魔術士であると思っています。まだ学生でありながら、現役の魔術士と比べてもそうそうここまでの使い手はいないでしょう…」


「な、何だよいきなり…」


「…そんな貴方が、隔絶した力の差を感じたと思ったのなら、それは一朝一夕で埋まる物では無いでしょう」


「なっ…何が言いたいんだよ!?」


「ハマドウはその才能に加え、並々ならぬ修練を重ね、貴方以上の修羅場を潜り抜けた末の力、そんな力にちょっと修行を積んだ位で差が埋まると思ってるのですか?」


「うっ…!?」


ラピスの言わんとしてる事は理解出来た。ハマドウの事についての文献は数多く読んでいたので、その凄さは俺も良く知っていた。


クウゴとの旅以降も、魔術士として数々の伝説を残していた最強の魔術士。その経験値は俺とはまるで比べ物にならないだろう。


そんな奴にちょっとの訓練程度で追い付ける訳が無いのは、誰にでもわかる。だが、


「それでも…俺は約束したんだ、クウゴと!! ハマドウは俺に任せろって、だから…!!」


「落ち着きなさい。何も案が無い訳ではありません」


ラピスは俺の言葉を遮る様に言い放つと、話を続けた。


「貴方が前にアイオーンで手に入れたという魔術書、この間貴方に見せて貰った時に思った事があります」


「あの魔術書が?」


「邪悪な力を焼き尽くすという聖なる炎、しかしそれは術者自身の魔力にも反応し、自らも焼き尽くしてしまうと…しかし思うのです。炎が魔力に反応するという事は、あの力は…『魔術士殺し』になると」


「!!」


「魔術士であるハマドウ相手であれば、あの炎は強力な切り札になり得る。もし貴方があの炎を完璧に制御出来るのであれば、ハマドウに渡り合えるかも知れません」


「魔術士殺し、か…」


その可能性は、俺も感じていた。


あの魔術書を始めて読んだ時、書が見せた幻影にて俺自身焼かれたのだから。


もし、ラピスの言う通りあの炎を自身を焼かれずに制御出来るようになれば、それは対魔術士には強力な切り札になるであろう。恐らく、ハマドウに対しても。


「そこで…私からの案です。 これから貴方に、より完璧な魔力のコントロールを身に付けて貰います。それにより、聖なる炎を制御出来るようにします」


「ほうほう。んで、その方法は?」


「これです」


そう言って、ラピスはどこからかリンゴを取り出してみせた。


「…え? 握り潰せと?」


「違います。見てなさい」


そうしてラピスは掌に魔力を込め、炎の魔術を発動しる。すると、メラメラとリンゴが炎を上げ燃え始めた。


「こうして炎を制御して、リンゴの皮だけを焼き尽くすのです。精密な炎の制御が可能になれば、聖なる炎を制御出来る程の技術が身に付く筈…」


そして、ラピスの掌のリンゴの皮が焼けていく。そして、


「…いや、焦げ焦げやん」


「う…」


明らかに火力が強すぎたのか、リンゴは焦げまみれであった。


「と、兎に角!! 貴方はこれを出来る様になりなさい!!」


「えぇ…」


こうして、俺は聖なる炎制御の為、炎でのリンゴの皮剥きの修行を行うのだった。

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