無能の天音くん
声の主は愉快に距離を詰め、ドンっと強く肩を押した。
「うっ」衝撃で本の上に尻もちをついてしまった。地面に本が数冊落ち、帯がちぎれ破れる。
「これはこれは、無能の天音藤四郎クンじゃないですか〜」
14の時に同じクラスだった、誉拓也がポケットに手を突っ込む。顔を覗き気味に中腰に屈み、大声で捲し立てた。後ろにいる女が、先ほど僕が見ていた本を指さしてゲラゲラと嘲笑った。
「ヤバ!まって!8歳までに異能力を発現させる方法だって!!」
「お前、いくつだよ、ギャハハハ!しぬ!」
拓也が僕の顎を強引に引きながら掴む。
「自己啓発?えらいでちゅねー!」
「でもでも〜無能者はしんでくださーい!生きてる価値ないでーす!」
拓也は、掌をひらひらとなびかせた後に親指で首を切る仕草をした。
後手でぐっと拳を握る。誰も助けてくれない。この世は異能主義で、能力の強いものが正しいのだ。みんな見て見ぬふりをする。気の毒そうにちらりと見るだけで何も言えない。何もできない。僕が逆の立場なら同じことをする。
「ギャハハハ!!!おまっっ!!言いすぎやろ、しぬ!!!」
「あは、そうだよ〜拓也〜。これから凄い能力発現するかもしんないじゃん〜」
「そんなわけないだろ!15になっても発現しねーんだから大した能力じゃねーんだわ、目立たねぇ能力は無能だろ」
「ちょっまっ!同級にランガはまじ、しぬ!!」
「てか、トイレの便座上げる能力じゃね。それはみせらんねーわ」
「くっさ!!くっさ!地味すぎ、しぬ!」
「かわいそ!役に立たな〜よわよわ〜〜」
取り巻き達が各々言いたい放題、言い嗤う。
もう慣れっこだ。今日は運が悪かった。そのまま黙って嵐が過ぎるのを待てばいい。無表情でなんてことない顔をして、歯で舌を噛んで飽きるのを待つ。後ろで隠す拳を握り込んで、爪が皮膚に食いこむまで耐えればいい。いつものことだ。
そう思った矢先にこの学園の学徒を注意をする声が飛んできた。柔らかでいて、凛とした声だ。そこにあった不協和音が正しい調律したかのように感じた。
「君たち静かにしてくれないか?ここは書店だ、他の客もいる。」




