↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
90/91

第九十話

「じゃあこうすればいい」


ミアのその一言に、嫌な予感を覚えた者は少なくなかった。


そして案の定――完成したのは、川の字。

しかも、ただの川の字ではない。


キングサイズの寝台の中央にミア、その両側にニチカとユエリーという、誰がどう見ても“地獄絵図”としか言いようのない配置である。


「……ははっ」


ナギはとうとう堪えきれず、腹を抱えて笑い出した。


「これ最高だろ……!」


老師も肩を震わせながら、


「自業自得だな」


と楽しそうに呟く。

当事者たちは笑えない。


「……屈辱だ」


ニチカは内心でそう呟いた。


本来ならば、ミアの隣は自分であるべきではないのか――そんな思考がよぎらなかったわけではない。


だが現実は、もう片側にあの龍がいる。

しかも距離が近い。


近すぎる。呼吸すら感じる距離。だが、

(……まあいい)

ちらりと横を見る。


ユエリーの表情。

それを見て、少しだけ溜飲が下がる。


――明らかに不機嫌だった。


「……わたしと主の愛の巣に」


低く、押し殺した声。


「穢れが入ってきた」


ぼそりと呟く。

完全に不服である。


ニチカは内心で小さく勝利を確信した。

(ざまあみろ)

言葉には出さないが、顔には少し出ている。


「ユエリー」


ミアが、すぐにそれをたしなめる。


「そういう言い方しないの」


やんわりと、しかし確実に。

“主”としての声音。ユエリーは一瞬だけ言葉を飲み込み、


「……すまぬ。」


と渋々引き下がる。

だが納得はしていない。


視線が雄弁に語っている。その一方で、ミアは反対側のニチカへと手を伸ばした。

きゅ、と小さな手が握る。


「大丈夫?」


気遣うように。

ニチカは一瞬驚いたあと、


「……うん」


とだけ答えた。


その一言で、さっきまでの苛立ちが少しだけ和らぐ。

単純だと自分でも思う。だが、それでいいとも思う。


しばらくして――ミアの呼吸が、ゆっくりと整い始める。


すう、すう、と小さな寝息。あっという間だった。


真ん中で無防備に眠る小さな主。

その両側で――空気が、重い。


ニチカとユエリー。


互いに視線を向けるわけでもなく、しかし完全に意識し合っている。微動だにしない緊張。


まるで、どちらが先に折れるかの無言の戦いのようだった。

その様子を、少し離れた場所から眺めながら、ナギがぼそりと呟く。


「……俺だったら、すげぇ寝づらいけどな」


心底どうでもよさそうな感想。

だが的確でもある。誰も返事をしない。


というより、できない。

やがて――その緊張も、ゆっくりとほどけていく。


ミアの体温と、規則正しい寝息が、少しずつ空気を和らげていく。


ニチカは目を閉じる。

ユエリーもまた、静かに呼吸を整える。


それぞれに思うところはありながらも、抗うことのできない眠りが、そっと降りてくる。


雪は、変わらず降り続いている。

庵の中、灯りは落ち、静かな夜がすべてを包み込む。


そうして三人は――それぞれの思惑を胸に抱えたまま、ゆっくりと夢の中へと沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。