第九十一話
パシャリ、と小さな音が夜に落ちた。
静まり返った庵の中、その一瞬の光だけが、確かに“今”を切り取る。
老師の手にある魔道具が、静かに役目を終える。
写し取られたのは――
中央で無防備に眠る白き魔女ミア。
その両脇で、それぞれに違う緊張と安らぎを抱えながら眠りに落ちたニチカとユエリー。
歴代最年少の傭兵王と、白き魔女、そして元龍王。
本来なら同じ寝台に並ぶことなどあり得ない三者が、こうして無防備な寝姿を晒している。
それは滑稽で、どこか愛おしく、そして何より――奇跡のような光景だった。
魔道具からゆっくりと浮かび上がる像を、老師は満足げに眺める。
「……いいな」
ぽつりと呟く。
アルバムの一ページに丁寧に収められたそれは、間違いなく“最高の一枚”だった。
「悪趣味過ぎんだろ」
横でナギが呆れたように言う。
腕を組み、苦笑混じりにその写真を覗き込む。
「寝顔盗撮とか、完全にアウトだろ」
だが老師は気にも留めない。
「こういうのがな」
アルバムを閉じながら、
「平和ってやつなんだろ」
そう言って、くつりと笑った。
その言葉に、ナギは一瞬だけ口を閉じる。
否定はできなかった。
ついこの前まで、命のやり取りをしていたような面子が、今はこうして同じ場所で眠っている。
確かにそれは、平和と呼ぶにふさわしい光景だった。
「……まあな」
小さく、認めるように呟く。
老師はそのまま立ち上がり、軽く背を伸ばした。
「さて、俺も寝る」
振り返りもせずに言う。
「夜番を頼むぞ」
その言葉に、ナギは肩をすくめた。
「はいはい」
軽い返事。
だがその声には、確かな責任が乗っている。
老師はそのまま寝室へと下がり、庵の中は再び静寂に包まれる。
残るのは、ナギひとり。
囲炉裏の火が静かに揺れ、外では雪が降り続いている。
ナギはゆっくりと視線を巡らせた。
眠る三人。
規則正しい呼吸。
わずかな寝返り。
どれもが“守られる側”の無防備さを示している。
だが――
「……ま、問題ねえな」
小さく呟く。
オートマタである彼にとって、この程度の警護は造作もない。気配のひとつ、風の揺らぎひとつで異変を察知できる。
この庵に、外敵が入り込む余地などない。
それでも、目は閉じない。
ただ静かに、確実に、夜を見張り続ける。
雪は、なおも降り積もる。
世界が白に包まれていく中で、庵の中だけが、確かな温もりを灯していた。




