第八十四話
「ちょ、なにこれ。クリスマス?」
庵の中に一歩足を踏み入れた瞬間、ニチカの視線は飾り付けの名残と、卓の上に残された甘い痕跡、そして――開かれたアルバムに釘付けになった。
「ずるい、ずるすぎる」
低く、しかし確実に感情のこもった声。
ページをめくる手が、だんだんと荒くなる。
「ご馳走食べて、ミアのディナーショー聞いて、プレゼント交換まで!」
ぱたり、とアルバムを閉じて、
「どうして僕のこと呼んでくれなかったのさ!」
ほとんど叫びに近い声だった。
悔しさを隠そうともせず、目元にはうっすらと涙が滲んでいる。
分かっていた。
こうなることは、全員が。
だからこそ、あえて触れなかったのだが――やはりこうなる。
ナギは肩をすくめ、
「だから言わなかったんだよ」
とぼそり。
老師も苦笑いで黙っている。
ユエリーはというと、
「当然の帰結だな」
などと余計な一言を添えた。
火に油である。
ニチカはアルバムを再び開き、今度は“食い破りそうな勢い”でページを睨みつける。
そこに映るのは、自分の知らない時間。
自分のいない場所で紡がれた、確かな“楽しい”の記録。
その一枚一枚が、やけに眩しい。
その時――ふわり、と首元に温もりが落ちた。
「はい」
ミアが、何気ない仕草でマフラーをかける。
ミアの手編みのもの。
柔らかくて、少し不揃いで、でも確かに丁寧に作られたそれ。ニチカは一瞬、言葉を失った。
「……僕の分?」
確かめるように呟く。
ミアはにこりと笑う。
「うん。ニチカの分」
当たり前みたいに。
何も特別なことじゃないみたいに。
その一言で、張り詰めていたものが、ふっと緩む。
「……ずるいのは、そっちだよ」
小さく呟く。
悔しさは消えていない。
けれど、それ以上に――嬉しさが勝ってしまった。
納得するしかない。
この場所は、そういうところなのだと。
「……ありがとう」
素直にそう言って、マフラーに顔を少し埋める。
その様子を見て、ナギが軽く笑い、
「単純だな」
と茶化す。
「うるさいな」
即座に返すが、声に棘はない。
そして――
「ほら、こっち向け」
ナギが例の魔道具を構える。
老師も頷く。
ミアが隣に並び、ユエリーは当然のようにその背後に立つ。
少しだけ間があって、ニチカもそこに加わった。
カシャ、と小さな音。
一瞬の光。
そして数秒後、アルバムの新しいページに、像が浮かび上がる。
そこには、遅れてきた一人を含めた、“今”の全員が写っていた。ニチカはそのページをしばらく見つめて、ふっと笑う。
「……これなら、まあ許す」
完全にではない。
でも、十分だ。
そうして、アルバムの一片に――ようやく、ニチカの姿が加わった。




