第八十三話
ニチカの武装解除は、もはや一種の儀式となっていた。
玄関口に立たされた彼は、慣れた手つきで一つずつ装備を外していく。両手首、両足首、腰回り、靴の内側、衣の裏地――ありとあらゆる場所から武器や道具が現れ、そのたびに小さな金属音が積み重なっていく。
さらに、長く伸びた銀髪に指を差し入れれば、そこからも細身のナイフが抜き取られる。
「……相変わらずすごい量だな」
ナギが呆れ半分に呟く。
「仕事だからね」
ニチカはさらりと返すが、その目はどこか柔らかい。
最後の一本を外し終え、完全に“何も持たない状態”になってようやく、彼は肩の力を抜いた。
張り詰めていた気配が、ふっとほどける。
それを確認して初めて、この場にいる全員が日常へと戻るのだった。
「よし、終わりだな」
老師が一声かける。
それを合図に、空気が切り替わる。
卓ではすでに、お節料理や年越しそばの準備が始まっていた。切る音、煮る音、湯気の立つ匂いが広がり、年の瀬らしい慌ただしさと温もりが同時に満ちていく。
そんな中で、老師がふと思い出したように言った。
「お前ら、先に風呂入っちまえ」
歳の湯。
一年の穢れを落とし、新しい年を迎えるための、ささやかな区切り。
「えっ、一緒に?」
ニチカが思わず聞き返す。
戸惑いと――ほんの少しの期待が混じった声。
だが間髪入れず、
「馬鹿、順番だよ」
ナギが呆れたように頭をはたく。
「そういう文化じゃねえからな」
現実は厳しい。
「……そっか」
少しだけ残念そうにするあたりが、いかにも彼らしい。
だがすぐに、ふと視線を横へ向ける。
「じゃあ、あの龍は?」
指された先。
そこには――当然のようにミアの後ろをついていき、風呂場へ入ろうとしているユエリーの姿があった。
迷いがない。
極めて自然な動き。
ナギが「あー」と声を出す。
説明しようと口を開きかけた、その瞬間。
「ユエリー!!」
ぴしゃりと響くミアの声。
「お風呂の世話はいらないって言ってるでしょ!」
次の瞬間、ゴンッ、といい音がした。
風呂桶が、見事にユエリーの頭に直撃する。
無言で固まるユエリー。
そのまま、すごすごと後退。
完璧な一連の流れ。
ナギは肩をすくめた。
「……あれがセットなんだよ」
慣れきった説明。
ニチカは一瞬ぽかんとした後、くすっと笑った。
「なるほど」
どこか安心したように。
「心配には及ばなかったみたいだ」
その言葉に、ナギはにやりとする。
「だろ?」
庵の中には、また賑やかな気配が戻る。
湯気の向こう、笑い声と、小さな騒ぎ。
年越し前の、穏やかで騒がしいひとときが、静かに続いていった。




