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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

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第八十三話

ニチカの武装解除は、もはや一種の儀式となっていた。


玄関口に立たされた彼は、慣れた手つきで一つずつ装備を外していく。両手首、両足首、腰回り、靴の内側、衣の裏地――ありとあらゆる場所から武器や道具が現れ、そのたびに小さな金属音が積み重なっていく。


さらに、長く伸びた銀髪に指を差し入れれば、そこからも細身のナイフが抜き取られる。


「……相変わらずすごい量だな」


ナギが呆れ半分に呟く。


「仕事だからね」


ニチカはさらりと返すが、その目はどこか柔らかい。


最後の一本を外し終え、完全に“何も持たない状態”になってようやく、彼は肩の力を抜いた。


張り詰めていた気配が、ふっとほどける。


それを確認して初めて、この場にいる全員が日常へと戻るのだった。


「よし、終わりだな」


老師が一声かける。

それを合図に、空気が切り替わる。


卓ではすでに、お節料理や年越しそばの準備が始まっていた。切る音、煮る音、湯気の立つ匂いが広がり、年の瀬らしい慌ただしさと温もりが同時に満ちていく。


そんな中で、老師がふと思い出したように言った。


「お前ら、先に風呂入っちまえ」


歳の湯。

一年の穢れを落とし、新しい年を迎えるための、ささやかな区切り。


「えっ、一緒に?」


ニチカが思わず聞き返す。

戸惑いと――ほんの少しの期待が混じった声。

だが間髪入れず、


「馬鹿、順番だよ」


ナギが呆れたように頭をはたく。


「そういう文化じゃねえからな」


現実は厳しい。


「……そっか」


少しだけ残念そうにするあたりが、いかにも彼らしい。

だがすぐに、ふと視線を横へ向ける。


「じゃあ、あの龍は?」


指された先。


そこには――当然のようにミアの後ろをついていき、風呂場へ入ろうとしているユエリーの姿があった。


迷いがない。

極めて自然な動き。

ナギが「あー」と声を出す。

説明しようと口を開きかけた、その瞬間。


「ユエリー!!」


ぴしゃりと響くミアの声。


「お風呂の世話はいらないって言ってるでしょ!」


次の瞬間、ゴンッ、といい音がした。

風呂桶が、見事にユエリーの頭に直撃する。


無言で固まるユエリー。

そのまま、すごすごと後退。


完璧な一連の流れ。

ナギは肩をすくめた。


「……あれがセットなんだよ」


慣れきった説明。

ニチカは一瞬ぽかんとした後、くすっと笑った。


「なるほど」


どこか安心したように。


「心配には及ばなかったみたいだ」


その言葉に、ナギはにやりとする。


「だろ?」


庵の中には、また賑やかな気配が戻る。


湯気の向こう、笑い声と、小さな騒ぎ。

年越し前の、穏やかで騒がしいひとときが、静かに続いていった。

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