↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/87

第七十七話

「そういえばクリスマスの存在、ニチカに教えてなかったね」


ぽつりと、ミアが思い出したように呟いた。


窓の外では雪がしんしんと降り積もり、庵の中はいつもより少しだけ忙しない。卓の上には見慣れない料理の準備が並び、甘い香りと香ばしい匂いが入り混じっている。


遠い昔の、宗教に由来する祭り。


だがミアにとっては――

(イベントはイベントだよね)

それ以上でも以下でもない。楽しいものは、やる。それだけの話だった。


「ふーん、なんだそれ」


ナギが興味なさげに覗き込む。

ミアは手を止めずに答えた。


「えっとね、昔の聖人の誕生日をお祝いする日なんだけど、今はもうお祭りみたいな感じかな。ごちそう食べて、贈り物して、楽しく過ごすの」


説明としては雑だが、本質は外していない。

ナギは腕を組んで首を傾げる。


「誕生日……またか」


最近やたらと“誕生日”という概念を聞く気がする。

ミアはくすりと笑った。


「まあ、そういう日がいっぱいあるって思えばいいよ」


気軽なものだ。だからこそ、取り入れやすい。そして――


「……ニチカには教えてないんだよね」


ふと、手を止める。少しだけ考えるように視線を落とす。冬の旅の最中の少年を思い浮かべる。

今ごろどこにいるのか。何をしているのか。


「教えたら絶対来たがるよね」


ぽつりと呟く。それは、確信に近い。ナギは即座に頷いた。


「来るな。全力で」


断言できる。間違いなく。だが――


「さすがにクリスマスまでは待てないよね」


ミアは肩をすくめる。

冬は長い。

そしてイベントは“その時”にやるから楽しいのだ。


「まあな」


ナギも納得する。その背後で。


「……くく」


小さく笑う声がした。

老師である。

あからさまに、わざとらしく。


まるで何かを企んでいるような笑みを浮かべながら、オーブンの扉を開ける。


熱気がふわりと広がる。


中から現れたのは、こんがりと焼き上がった七面鳥。

皮は黄金色に輝き、肉汁がじゅわりと滲んでいる。

明らかに手間のかかった一品だ。


「ほらよ」


どん、と卓に置く。


「せっかくの“祭り”だ。形だけでも整えねえとな」


言いながらも、その目は笑っている。

完全に楽しんでいる。


「絶対わざとだよね」


ミアがじとっとした目を向ける。


「なんのことだ?」


とぼける。だが隠す気はない。

“ニチカがいない時にやる”。

それを分かっていて、あえて準備している。


「異世界の祭りなんざ、知らなくて当然だろうが」


肩をすくめる。


「聖人だの誕生日だの言われても、あいつにゃピンと来ねえよ」


理屈としては正しい。


だがその裏には――

(今のうちに楽しんどけ)

という、妙な気遣いが混じっている。


ユエリーは、その様子を少し離れたところから見ていた。


「……なるほど」


静かに呟く。

祭り。祝い。そして、贈り物。

番が楽しそうにしている。


それだけで、意味は十分だった。


「ならば私も用意しよう」


さらりと言う。

ナギがぎょっとする。


「は? お前もなんかやるのか?」


「当然だ」


迷いがない。むしろ当然の義務のように。

ミアは目を輝かせた。


「ほんと?なにするの?」


無邪気に期待する。

ユエリーは一瞬だけ考え――


「……最高のものを用意する」


それだけ告げた。具体性はない。

だが妙に確信に満ちている。


ナギが小声で呟く。

「嫌な予感しかしねえ……」

老師は七面鳥を切り分けながら、

「まあ見ものだな」

と、楽しげに笑った。


外は雪。

内は灯りと温もり。


そして、どこか少しだけ“ずるい”クリスマスが、静かに始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。