第七十四話
冬は、静かに、しかし確実に庵を包み込んだ。
外の景色は白に閉ざされ、音は吸い込まれ、世界そのものが一段落ち着いたような気配を帯びる。だがその中で、庵の内側だけは妙に賑やかだった。
原因は明白である。
ニチカが置いていった“贈り物”だ。
羊のフード付きロンパース。
もこもことした柔らかな生地が、まだ小さな体をすっぽりと包み込み、丸みのあるシルエットをさらに愛らしく強調している。白に近い淡い色合いが、ミアの真珠色の髪とよく馴染み、まるで最初からそういう生き物であるかのような完成度だった。
暖かい。軽い。動きやすい。そして何より――
「……かわいい」
ナギが思わずぽつりと漏らすくらいには、破壊力があった。
ミア自身も気に入っているらしく、すっかり普段着の一つとして馴染んでいる。外に出る時も、庵の中でも、気がつけばそのもこもこした姿が視界に入る。
四歳児らしい。
見た目だけならば。
だが問題は、それだけでは終わらなかった。
「今日はうさぎー」
ミアがぱたぱたと歩く。
足元には、白いうさぎのスリッパ。
耳がぴょこんと揺れる。
「こっちはあったかいよ」
くるりと回る。
今度は狐のポンチョ。
ふわりと広がる毛並みと、少しだけ悪戯っぽい意匠。
日替わり。
いや、時間替わりと言ってもいい。
気づけば装いが変わっている。
「……動物園かここは」
ナギが呆れたように言う。
だがその声には、どこか笑いが混じっていた。
老師は何も言わない。
ただ、茶を啜りながら目を細めている。
完全に諦めの境地である。
そして。
その様子を、誰よりも楽しんでいる存在がいた。
ユエリーである。
「……次はこれだな」
どこからともなく取り出す。
新しい衣装。
ニチカが残していったものの一つだ。
手に取る仕草が、妙に慣れている。
というより――完全に“楽しんでいる”。
「ユエリー?」
ミアが首を傾げる。
その瞬間にはもう遅い。
「こちらへ」
すっと手を差し出す。
拒否権があるようで、実はない。
ミアは少しだけ迷ったあと、素直に近づく。
着せ替えられる。
丁寧に。まるで宝物でも扱うかのように。
髪を整え、襟を直し、裾を軽く払う。その一連の動作に、妙なこだわりが見える。
「……うん」
一歩下がって、全体を眺める。満足げに頷く。
「よく似合う」
その声音は、どこか誇らしげですらあった。
ナギがぼそりと呟く。
「完全に着せ替え人形じゃねえか……」
否定できない。
ミアは鏡代わりに水面を覗き込み、少しだけくすぐったそうに笑う。
「ふふ、かわいい?」
「当然だ」
即答だった。
迷いがない。
その様子に、ナギが肩をすくめる。
そして、ユエリーはふと小さく呟いた。
「あの小僧……」
一拍。
わずかに目を細める。
「センスだけはやるではないか」
認めている。癪ではあるが。
明らかに。実用性。見た目。
そして“ミアに似合うかどうか”。
すべて計算されている。
それが分かるからこそ、余計に腹立たしい。
だが同時に、
(……悪くない)
とも思ってしまう。それがさらに面白くない。
ミアはそんなことなど知らず、
「今日はこれでいこーっと」
と、楽しそうにくるりと回る。
白い世界の中で、小さな色が動く。
その光景を、ユエリーは静かに見つめる。
守るように。飾るように。
そして――誰にも渡さないとでも言うように。




