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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

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第七十三話

老師は、囲炉裏のそばに腰を下ろしたまま、何も言わずにその一連のやり取りを聞いていた。


薪がぱちり、と爆ぜる。


その小さな音だけが、妙に現実的で――他はどこか、浮ついているようにすら思えた。


一月一日。


ミアの誕生日。


そして――


(……お正月様も来る)


分かりきっている未来に、老師は内心で深くため息をついた。


あの存在が、ただ静かに現れるはずがない。


時の神であり、歳神であり、“あるがままにあれ”と赤子を連れてきた存在。


祝福で済めばいい。

だがあれは、祝福と同時に“揺らぎ”そのものだ。


そこに、龍が一匹。

しかも番に執着している元王。


さらに、商人にして傭兵の王。

しかもあからさまに“食い込もうとしている”。


(……混沌、だな)


いや、混沌で済めばまだいい。


最悪、空間がひとつ吹き飛ぶ程度で収まるかどうか。

ちらりと視線をやる。


ユエリー。


静かに佇んでいる。だがその口元。

ほんのわずかに――緩んでいる。

(ほくそ笑んでやがるな、あれ)

老師の眉間に、深い皺が刻まれる。


あの龍は、何かを“狙っている”。間違いない。


あの性質だ。ただ守るだけでは終わらない。

必ず、取りに来る。

確定させに来る。番としての位置を。関係を。未来を。


そしてもう一人。


ニチカ。

あちらもまた、静かに燃えている。


あれは“手段を選ばない”目だ。

商人の合理と、傭兵の実行力。

どちらも持っている。

しかも厄介なことに――「友達」という立場を、崩す気がない。


(……一番厄介な位置に居座りやがる)


敵でもなく、明確な恋敵でもなく、だが確実に踏み込んでくる。


排除しづらい。

そして、ミアは。


そのどちらにも、等しく笑いかける。

悪意なく。線引きもなく。ただ自然に。


(……ああ、もう)


老師は、ゆっくりと顔を覆った。

こめかみを押さえる。

頭が痛い。


「……やめだやめだ」


ぼそりと呟く。誰に聞かせるでもなく。


「こいつらの育児、投げ出して逃げたくなるな……」


本音だった。心底の。

だが逃げられないことも、よく分かっている。

あの白い魔女がいる限り、この騒動の中心はここだ。


そして自分は、その“庵の主”。逃げ場などない。

薪がまた、ぱちりと音を立てた。


老師はそれを見つめながら、深く、長く息を吐く。


(……まあいい)


どうせ止めたところで止まらん。

ならばせめて、“壊れないように見ている”しかない。


視線を上げる。


笑い合う子どもたち。

その中に混ざる、明らかに子どもではない二つの影。


そのすべてを、まとめて見渡しながら――老師は、諦めたように小さく笑った。


「……派手になるぞ、こりゃあ」

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