↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/88

第七十話

「うわぁ、すごいなあ、ミアは!」


その声は、地下室に広がった“無限”を前にしてなお、妙に軽やかだった。


感嘆の響きは確かにある。だがそれが純粋な驚きだけなのか、それとも意図的に場を揺らしているのか――判別がつかない。


次の瞬間。


ニチカは、躊躇いなく動いた。


ひょい、と。

本当に何でもないことのように、ミアの体を抱き上げる。


軽い。

あまりにも軽く。


まるで高い高いでもするかのような勢いで持ち上げられたミアは、一瞬だけ目を丸くした。


「ちょ――」


言葉になる前に、頬に、すり、と触れる感触。


距離が近い。近すぎる。

「さすがは僕のお姫様だね!」

無邪気とも取れる声。


だがその実、どこか確信に満ちている。

ミアの価値を“見抜いた”者の声。

そしてそれを、自分の中で特別な位置に置こうとする声。


「大魔女、いや……女神って呼んだ方がいいのかな」


軽やかに言葉を重ねる。

称賛は途切れない。


むしろ、わざと大袈裟にしている節すらある。

その間にも、腕はしっかりとミアを支えたまま離さない。


「ねえミア、これってどこまで入るの?世界ひとつ丸ごととか――」


楽しげに問いかけながら、ほんのわずかだけ、腕に力がこもる。


独占とも違う。

だが、距離を詰める意図は明確だった。


そして。――ぴくり。


その空気が、わずかに軋む。

ユエリーのこめかみに、細く青筋が浮かんだ。


ほんの一瞬。

ほんのわずか。

だが確かに、そこに“反応”があった。


空気が冷える。

結界越しであるはずの空間が、わずかに張り詰める。

ミアの背後にある無限の空間が、かすかに揺らぐほどに。


「……離せ」


低い声だった。

抑えられている。

だが完全ではない。


龍としての本能に近い何かが、滲み出ている。

ニチカは、その声を聞いてもなお、笑みを崩さなかった。

むしろ、ほんのわずかに目を細める。


「え?」


とぼけるように返す。


「なんで?」


問いの形をしているが、その実――挑発だ。

明確な。


「僕、友達だよ?」


さらりと言う。

だがその言葉は、軽くない。


“許されている距離”を主張する言葉。

「それに――」

ちらりと視線を落とす。


腕の中のミアへ。

「嫌がってないでしょ?」

事実を突く。逃げ道を塞ぐように。


ユエリーの視線が、鋭くなる。

ほんの一歩、前へ出る。

その動きだけで、空間の圧が変わる。


結界が、わずかに軋む。ミアは、その中心で――

「……ふたりとも」

ぽつりと声を出した。


その声は、小さい。だが、不思議とよく通る。

ニチカの腕の中で、じっと二人を見比べる。

そして、


「重い」


端的に言った。沈黙。一拍。

ニチカが、わずかに固まる。

ユエリーの動きも、止まる。


「話はあとで聞くから、いったん下ろして?」


淡々としたお願い。

だが拒否の余地はない。

ニチカは数秒の間のあと、


「……はい」


素直に従った。

そっとミアを床に下ろす。


その瞬間、空気が、少しだけ緩む。

ミアは軽く服を整えながら、小さく息をついた。


「……ありがと。でもびっくりするからやめてね」


にこりと笑う。

いつも通りの調子で。

だがその視線は、しっかりと二人を捉えていた。


「あと、ここ狭いから暴れないでね?」


背後には“無限”がある。

だが足元は、あくまで六畳だ。


その現実的な一言に、ナギがいなくても突っ込みたくなるような空気が一瞬流れ――


ユエリーは静かに視線を逸らし、ニチカは、くすりと笑った。


だがその笑みの奥には、はっきりとした“競り合い”の気配が残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。