第六話
「へぇ」
低く笑うような声が、回廊の奥から響いた。
「面白いものを見せてもらった」
その瞬間、空気が変わる。
重い。
存在そのものが空間を押し広げるような圧力。
老師の眉がぴくりと動き、冥王閻魔の顔があからさまに固まった。
「……おい」
振り返った先。
回廊の入口に立っていたのは、残る三王だった。
精霊王セルジュ。龍王楼蘭。そして魔王轟焔。
四王会議を抜けてきた冥王を追って来たのか、それとも最初から気配を辿っていたのか。
少なくとも、“偶然”ではない。
轟焔が口角を吊り上げる。
燃えるような赤銅の瞳が、老師の腕の中の少女へ向けられた。
「妙に大人びたことを言いやがるガキだと思えば」
一歩。
足音だけで空気が軋む。
「お前、転生者だな?」
ミアは沈黙した。
轟焔は気にせず続ける。
「しかも」
ちら、と視線が冥王へ向く。
「冥王と馴染みの」
閻魔が舌打ちした。
「……だから会議を抜けたくなかったんだ」
ぼそりと零す。
セルジュはその横で、興味深そうにミアを眺めていた。
対して楼蘭は静かだった。
ただ、金の双眸を細め、叔父である月麗とは違う形で少女を観察している。
王として。
龍として。
値踏みするような視線。
そんな中、轟焔だけが遠慮なく距離を詰めてきた。
「顔見せろ」
ひょい、と。
あまりにも自然な動作で、ミアのフードを摘み上げる。
老師が止める間も無かった。
白い髪がさらりと零れる。
そして。
星眼。
藍の奥に金を宿した、異質な瞳。
轟焔と真正面から目が合った。
瞬間。
魔王の顔が盛大にしかめられる。
「……っ、は」
反射的に眉間を押さえる。
「魅了眼か」
低い唸り声。
「モロに見ちまった」
嫌悪感とも違う、脳を直接掻き回されたような不快さが滲んでいた。
「……クソ気分悪ぃ」
ミアは瞬きをひとつし、静かにフードを押さえ直す。
「不可抗力です」
平坦な声だった。
「今のは魔王様が無遠慮過ぎました」
轟焔の眉がぴくりと動く。
だがミアは気にせず続けた。
「ですが、魔王様の支配眼でだいぶ相殺できています」
「あなたは私へ、好感以上の感情は持たないはずです」
沈黙。
次の瞬間。
轟焔が思い切り顔をしかめた。
「……てめぇ」
額を押さえたまま吐き捨てる。
「人の内面弄られる身になりやがれ」
その声音には怒気が混じっていた。
だが同時に、妙な納得も含まれている。
魅了眼。
星眼。
それがどれほど危険なものか、轟焔は一瞬で理解したのだ。
セルジュが面白そうに笑う。
「へぇ〜」
「轟焔が真正面から食らうの珍しいね」
「うるせぇ」
即座に返される。
一方で楼蘭は静かにミアを見つめていた。
そしてふと、小さく呟く。
「……叔父上が気にかける理由は理解しました」
その言葉に、冥王の顔がさらに険しくなる。
老師だけが、頭を抱えていた。
「だから言ったろ」
「今回の四王会議、絶対ろくなことにならねぇって」




