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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

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第三十六話

腕の中にある温もりを、月麗は確かめるように抱きしめていた。


千年という時間が、指の隙間から零れ落ちていくような感覚。

失ったはずのものが、今、確かにここにある。


細い肩。軽い体。けれど――


(間違えるはずがない)


この魂を。

ふと、彼の視線が落ちる。


ミアの手。

その左手首に、淡く浮かび上がる紋様。


月麗の瞳が、わずかに見開かれた。

「……そうか」

納得の息が、静かに漏れる。


指先が、その紋へと触れた。

壊れ物を扱うように、そっと。


「君は……輪廻の輪の中で、僕の鱗を取り込んだのか」


なぞる。その輪郭を、確かめるように。

「この左手首にある紋……」

かすかに、笑う。どこか安堵を滲ませて。


「たしかに、私のものだ」


愛おしそうに。本当に愛おしそうに。

その手を持ち上げる。


そして――口付けた。静かに。深く。

その仕草は、執着にも似ていた。

ミアは、何も言わずにそれを受け入れる。


だが。

次の瞬間。


月麗の瞳に、別の色が宿る。

「それで……」

わずかに声が低くなる。

「……あの男には、会えた?」

空気が、変わる。


龍泉洞の霊気が、ぴり、と張り詰める。


その視線は鋭い。

静かだが、明確な敵意を孕んでいる。


他の者が受ければ、膝を折るほどの圧。

だが、ミアは――ゆっくりと、顔を伏せた。


ほんの少し。

ほんのわずかに。首を、横に振る。


否定。


それだけで、十分だった。

月麗は、何も問わなかった。

それ以上、聞く必要はない。


その仕草、その沈黙、そのわずかな気配だけで――

すべてを、理解した。


「……そうか」


短く、呟く。

そこにあるのは、怒りでも嘲りでもない。


ただ――静かな、受容。


ゆっくりと、手を伸ばす。

ミアの頭へ。

ぽん、と。優しく触れる。

撫でる。何度も。小さな頭。やわらかな髪。


その手つきは、先ほどまでの鋭さとは打って変わって、ひどく穏やかだった。

「君が、君のままで」

低く、柔らかく。

「無事に転生を果たしたなら……それでいい」


言い切る。そこには、嘘がない。

千年待った男の、本心。

そして。ほんのわずかに、口元が歪む。


「それに――」


視線が、再びミアへと落ちる。

じっと、見つめる。逃がさないように。


「それなら今は、君に伴侶は居ない状態……なのか」


確認するように。

だが、その答えはすでに分かっている。

ミアは、何も言わない。その沈黙を、肯定と受け取る。


月麗の瞳に、ゆっくりと熱が灯る。

それは、かつての王のものではない。

もっと個人的で。もっと強い。


「……それは」


指が、再びミアの頬に触れる。

なぞるように。確かめるように。


「僕にとっては――」


息が、近い。


「大変、都合がいい」


囁く。その声には、隠そうともしない執着と喜びが混じっていた。


まるで。

千年の時を経て、再び手に入れた宝物を――今度こそ離すまいとするかのように。

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