第三十四話
竜骨の間――それは、龍王たちの終着点であり、同時に記憶の沈殿する場所だった。
金、銀、朱。
豪奢に彩られた龍泉洞の奥、そのさらに奥。
だがその美しさは、祝祭のためのものではない。
積み重ねられた“終わり”を飾るためのものだ。
無数の龍骨が、静かに横たわっている。
時を越えて朽ちたもの、なおも威を放つもの。
そのすべてが、ここに眠る。
そして――最奥。
ひときわ静謐な場所に、ひとつの寝台があった。
白銀の髪が、ゆるやかに広がっている。
寝台の外へと流れ落ちるほどに長く、淡い光を帯びている。
その中心で。
月麗は、眠っていた。
まるで死者のように。
だが――その頬を伝うものがある。
涙。
閉じたままの瞼の奥で、何かを見続けているように。
現実を拒むかのように。
傍らには、花。
色とりどりの花が、丁寧に添えられている。
(……楼蘭)
ミアは、何も言わずにそれを見た。
あの男の不器用な優しさが、そこにあった。
足音を立てず、近づく。枕元へ。
白い衣が、わずかに揺れる。
「月麗」
静かに、呼ぶ。
「来たよ」
その声は、どこまでもやわらかく。
だが確かに届く。
ぴくり、と。
まぶたが、わずかに動いた。
それだけ。それ以上の反応はない。
ミアは、ためらわない。
薬瓶を取り出す。封を切る。
ほのかに光る液体。そっと、彼の口元へ運ぶ。
「少し、苦いよ」
そう言って。流し込む。
ゆっくりと。確実に。
喉が、動く。
ごくり、と。音が、静寂に響いた。飲み込まれる。
薬が、体へと落ちていく。
時間が、止まったかのような一瞬。
そして――変化は、訪れた。
ゆっくりと。本当に、ゆっくりと。
瞼が、開く。
光が、そこに戻る。
左右で色の違う瞳。
美しく、そしてどこか壊れていたその瞳に――
ミアの“星眼”が映る。
視線が、交わる。
その瞬間。
涙が、溢れた。
止まらない。ぽろぽろと、次から次へと。
月麗の唇が、震える。
声にならない声が、漏れる。
やがて。
ようやく、言葉になる。
「あぁ……」
かすれた声。それでも、確かに。
「君だ……」
見つめる。縋るように。
「私の番……」
その言葉には、すべてが込められていた。
失った時間。
叶わなかった想い。
消えなかった執着。
「私の……唯一」
震える手が、持ち上がる。
触れようとして。
だが、届かない。その距離が、あまりにも遠い。
ミアは、その手を見下ろした。
逃げない。
拒まない。
ただ――静かに、そこに立っていた。
白き魔女として。
そして――かつて、彼が“番”と呼んだ存在として。




