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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

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第三十話

満月が、ちょうど天頂にかかる頃。

三人は光とともに庵へと帰還した。


転移の残滓がふっと消えたその瞬間――

「……遅かったな」


腕を組んで立つ老師の姿があった。

影が長く伸び、背後の暖炉の火が揺れている。

だがその声には、咎める色はない。


「おかえり」


ただ、それだけを言って。

くるりと背を向ける。


「入れ」


三人は、自然とその背を追った。


庵の中は、すでに準備が整っていた。

薬研、すり鉢、乾いた布、蒸留器具。

火加減も、湿度も、すべてが計算され尽くした配置。


ナギが小さく息を呑む。

「……準備万端じゃねえか」


老師は振り返らない。

ただ、短く言う。


「当然だ」


その一言に、すべてが込められていた。


ミアは、そっとスノードロップを取り出す。

根ごと。

土を落としすぎないように、慎重に。


淡い桃色の花は、まだ生きている。

月光を浴びたその輝きを、失っていない。


「スノードロップは、咲いていなければ意味がないの」


静かに、言う。

誰に向けた言葉でもない。

ただ、確かな知識として。


そのまま、すり鉢の前に座る。


そして――

歌い始めた。呪文。だが、それは詠唱ではない。


歌だった。

澄んだ声。細く、しかしどこまでも通る響き。

空気が、変わる。


ミアの指が動く。

花弁を分け、茎を刻み、根をすり潰す。


その一つ一つが、正確無比。

無駄がない。

迷いもない。


ナギとニチカは、言葉を失っていた。

老師が、低く言う。


「龍の手ずから教わった調薬法だ」


誇りでも、驕りでもない。

ただの事実として。


「お前らは邪魔せんで見ていろ」


二人は、黙って頷いた。ミアの歌が、続く。


音が、器具に触れる。

空気に触れる。

そして――


薬へと、染み込んでいく。


すり潰された花が、次第に形を失う。

だが、その代わりに、別の何かが生まれていく。


淡い光。


最初は、かすかな揺らぎ。

やがて、それは確かな輝きへと変わる。


薬が、光り始めた。

ミアの歌に、応えるように。

呼吸をするように、明滅する。


ナギが、思わず呟く。

「……なんだ、これ」


知識では理解できない。だが、本能が告げている。

これは、ただの薬じゃない。

ニチカも、目を細めて見つめる。


(……すごいな)


戦いとは違う。だが、同じくらいの“異質”。

ミアの声が、最後の音を紡ぐ。

すっと、静寂が落ちる。


その瞬間――光が、ふっと収束した。

器の中に残ったのは、淡く輝く、ひとつの薬。


完成していた。

ミアは、小さく息を吐いた。そして、にこっと笑う。


「できた」

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