表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/39

第二十九話

ダンジョンボスを倒した後の“仕事”は、決して軽くはない。むしろ、ここからが冒険者としての腕の見せ所でもある。


マンティコアの骸から、ニチカは無駄のない手つきで核を探り当てた。

胸部の奥、硬質な骨に守られた中心。

刃を滑り込ませ、抉り出す。


現れたのは――赤子の頭ほどもある、巨大な魔石。


濁りのない深い輝き。

脈動するような魔力の気配。


(……上物だな)


素直にそう思う。

市場に出せば、とんでもない値がつく。

それこそ、一つで小国の財政を揺るがすほどの価値。


だが。

「いや、いらない」

ニチカは、あっさりと首を振った。


「持って帰れって!」

ナギが即座に食い下がる。


「そうだよ、ニチカが倒したんだもん!」

ミアも、当然のように言う。


「いやいやいや」

珍しく、ニチカが本気で拒否する。

「これ持って帰ったら説明が面倒なんだけど」


事実だった。

これほどの魔石、出所を誤魔化すなど不可能に近い。

祖父――シレンに見せれば、一瞬で全て見抜かれる。


(絶対面倒なことになる)


確信があった。だが。


「いいから持ってけって!」

「持ってって!」


二人がかり。押しが強い。

ニチカは、数秒だけ抵抗した。だが――


「……はぁ」


諦めた。

「わかったよ……」

こうして。


彼の腕の中には、不釣り合いなほど巨大な魔石が収まることになった。


(……おじい様、なんて言うかな)


珍しく、本気で頭を抱えたくなる。

そんな彼をよそに。


「次はこっちだよ!」


ミアは、すでに次の目的へと意識を向けていた。


スノードロップ。


最深部の奥、さらに進んだ先。

そこは戦いの場とは打って変わって、ひどく静かな空間だった。


ひっそりと。だが確かに。咲いていた。


淡い桃色の花。

月光を受けて、ほんのりと光を帯びている。

群生。ひとつやふたつではない。


「……これ、か」

ナギが小さく呟く。


見た目は可憐だ。だが、その扱いは極めて繊細。

少しでも雑に触れれば、すぐに枯れる。


「根ごと、だよね」

ミアがしゃがみ込む。


慎重に。本当に慎重に。


土を崩し、根を傷つけないように掘り起こす。

その手つきは、遊ぶ時とは別人のように繊細だった。

ニチカは、その様子を静かに見ていた。


(こういうことか)


彼女が、なぜここまでして来たのか。

その意味が、少しだけわかる気がした。


やがて、採取は終わる。


帰路。

再び、あのゴブリンの集落を通る。

だが――


空気が、まるで違った。

ざわめき。だが、それは警戒ではない。

歓声。

ゴブリンたちが、三人を見つけた瞬間――歓喜した。

声を上げ、手を叩き、飛び跳ねる。


ナギが目を丸くする。

「え、なにこれ……」


ミアが、くすりと笑う。


どうやら、マンティコアの断末魔はここまで届いていたらしい。


あの存在に、人身御供を差し出すことで均衡を保っていた彼らにとって――

それは、支配の終わりを意味する。


解放。


ゴブリンたちは、口々に何かを叫ぶ。

その言葉は荒く、だがはっきりとした感情を持っている。


ミアが、同じ言葉で応じる。短く、やわらかく。

何度も、何度も。


同じ単語が繰り返される。


ナギが、小声で言う。

「……これ、たぶん“ありがとう”だよな」


ニチカも頷く。

「だろうな」


覚える気はなかった。だが、自然と頭に入ってくる。


“ありがとう”。

その意味だけは、言葉を超えて伝わる。


ダンジョンを抜ける。

外の空気。夜の匂い。


見上げれば、月が昇り始めていた。

静かな光。戦いの熱を、ゆっくりと冷ましていく。

ミアが、くるりと振り返る。


「じゃあ、帰ろっか」


いつもの調子。

足元に、魔法陣が展開される。

光が、三人を包む。


ニチカは、腕の中の魔石を見下ろした。


(……ほんと、なんて説明しようか)


小さく息を吐く。

だが、その顔には――わずかな笑みが浮かんでいた。


次の瞬間、光が弾け、三人の姿は消えた。

残されたのは、静かな夜と、昇りゆく月だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ