第三話
老師は深く、深くため息をついた。
その腕の中で、白き魔女と呼ばれる少女はまるで当然のようにぶら下がっている。軽い。あまりにも軽い。だがその軽さが、逆に底知れなさを際立たせていた。
「お前なあ」
呆れの色が声に滲む。
「いくらなんでも時期尚早だ」
一拍置いて、少しだけ言葉を選ぶように続ける。
「三歳児の言うことじゃねえんだわ」
少女はまばたきひとつしない。
まるで自分の発言が“年齢”という枠で評価されること自体が理解の外にあるかのようだった。
それから、腕の中で小さく首を傾ける。
「ですが老師」
淡々とした声音。
「百年ぶりに開かれる四王会議に、たまたま私がこの年齢で現れただけです」
「タイミングが悪かっただけでは?」
老師の額に手が当てられる。
「タイミングの問題じゃねえ」
即答だった。
「そもそも内容がだ」
「内容が三歳のそれじゃねえ」
少女は少しだけ考えるように視線を上に向けたあと、ぽつりと呟く。
「では老師」
「私がもっと“爆イケ美魔女”であれば結果は変わりましたか?」
一瞬、空気が止まった。
老師の手がぴたりと止まる。
「……何だその概念」
「年齢と器の見た目を調整すれば交渉結果が変動する可能性についての仮説です」
「仮説じゃねえよそんなもん」
即座に切り捨てる。
だが少女は真剣だった。
「四王は外見的印象にも影響される傾向が観測されます」
「魔王は嘲笑を含む反応を示しました」
「冥王は感情を抑制しながらも動揺していました」
「龍王は比較的沈静でしたが、評価基準の再構築が必要と思われます」
「精霊王は観察寄りでした」
老師は完全に遠い目になった。
「分析すんな三歳児が」
腕の中の少女は、なおも淡々と続ける。
「ですので、外見要素は交渉において一定の寄与を持つと推測されます」
「だから“爆イケ美魔女”は有効戦略では?」
「ないわ」
即答だった。
間髪入れず否定されたのに、少女は一瞬だけ黙る。
そして。
「残念です」
とだけ言った。
老師は額を押さえたまま、もう一度ため息をつく。
「お前な」
「その発想がもう既に四王会議案件なんだよ」
腕の中の少女は、少しだけ視線を遠くへ向けた。
まるでまだ終わっていない計算式の続きを見ているかのように。
「では老師」
「私は何が間違っていたのでしょうか」
老師はしばらく黙ったあと、静かに言った。
「……間違ってるのはお前じゃねえ」
「世界の方だと思うことにしとけ」




