第二話
四王会議の空気が、そこで一段階“質”を変えた。
先ほどまでの異常はまだ「理解できない現象」の範疇にあった。だが今発せられた言葉は、それを軽々と飛び越えていた。
沈黙は長く続いた。
誰も笑わない。誰も即答しない。
魔王が最初に口を開いたのは、その沈黙を破るためというより、ただ確認のためだった。
「……は?」
低い声。そこに含まれていたのは嘲りではなく、純粋な確認だった。
次いで、魔王はわずかに口角を上げる。
「チビ」
「子供を産む前に、何をすべきか知っているか?」
場の空気がわずかに緊張する。冥王が小さくため息をつき、龍王側の席では誰かが椅子を握りしめた。
だが少女は、まったく揺れなかった。
「知っています」
即答だった。
その声には迷いも恥じらいもない。ただ、事実を述べるだけの静けさがある。
一瞬、魔王の方が言葉を失う。
そして続けて吐き捨てるように言った。
「おぞましい事だ」
「お前にそれが耐えられるか?」
それは問いというより警告だった。
だが少女は首を傾げるだけだった。
「なにも同時に行う必要はございません」
「順番に行えばよいのです」
淡々とした説明。
会議場にいる誰もが、一瞬“意味は理解できるのに理解したくない”という顔をする。
少女は続けた。
「私が嫁げばよいのです」
「体の接触すら要りません」
「お種を頂戴出来るのであれば」
その瞬間、冥王が頭を押さえた。
「……やめろ」
と、珍しく声を出す。
しかし少女は止まらない。
「そういう技術はございます」
「あとは貴方がたの覚悟の次第にございます」
言い切ったあと、ほんのわずかに間を置く。
そして――
「私は器ですので」
その一言で、場が完全に静止した。
龍王側の空気が揺れる。精霊王の席は沈黙したまま微動だにしない。冥王はただ、深く長く息を吐いた。
魔王はしばらく少女を見下ろしていたが、やがて鼻で笑うように言う。
「面白いな」
だがその笑いには余裕がない。
むしろ、測りかねている色が混じっていた。
その時、会議場の外縁で一人の男が静かに立ち上がる。
少女の“師匠”と呼ばれている存在。
彼は何も言わない。
ただ一度だけ少女を見る。
そして短く告げた。
「ここまでだ」
それだけで、場の“危うい方向への流れ”が切断されるように止まった。
少女は素直に頷いた。
「はい、師匠」
従順とも違う。
理解とも違う。
ただ、“区切り”として受け入れている。
その態度が、四王たちにとって最も異質だった。
魔王が最後に一言だけ吐き捨てる。
「……器、か」
誰にも届かないような声で。
その日以降、四王会議の記録にはこう残る。
――「白き魔女:危険ではなく、“前提として扱うべき存在”に変更」




