第一話
それは四王会議の記録の中でも、最も“異常”として封印扱いに近い形で語られる場面だった。
四界の中枢を司る者たちが揃うその場は、本来ならば静謐であるはずだった。龍界、冥界、魔界、精霊界――それぞれの王が揃い、世界の均衡を言葉で調整する場所。
だがその日だけは違った。
玉座の間に近い円環式の会議場、その中央に立っていたのは、あまりにも場違いな存在だった。
齢三つ。
白い髪を肩のあたりで揺らし、年齢に似つかわしくないほど澄んだ目をした小さな少女。
「白き魔女」と、後に記録へ残る者である。
彼女は、四王たちを前に臆することなく、むしろ当然のように言い放った。
「貴方がたにはお世継ぎが見込めません」
静寂。
誰も即座に否定できなかった。
それは“無礼”ではなく、“観測”として発せられた言葉だったからだ。
少女は続ける。
「理由は明快。その血と魔力が濃すぎるのでございます」
小さな指が、まるで世界の構造でも示すように空をなぞる。
「どんなに高貴なお妃様を迎えようと無駄です。四界はそのうち滅びます」
その瞬間、冥王が小さく呻いたという。
「……小さいの」
頭を抱えたのは、それが“比喩ではなく事実に触れている可能性”を一瞬でも感じてしまったからだ。
他の王たちは沈黙したまま少女を見ていた。
否定できる材料がない。しかし肯定するには、あまりにも結論が極端すぎる。
少女は一歩、前へ出る。
「私は器に最適です」
「貴方たちの魔力に耐えうる魔力持ちだからです」
そして、両手を掲げるようにして見せた。
「――これこのように」
その瞬間、彼女の掌に火が生まれた。
火球。
しかしそれはただの魔術ではなかった。
炎は“意志”を持つように蠢き、膨張し、形を変えた。
まるで何かを理解しているかのように。
そして次の瞬間――
不死鳥の形へと変貌した。
空間そのものを焼きながら羽ばたく、規格外の火の精霊。
会議場の空気が揺らぐ。
四王ですら一瞬、反応が遅れた。
だがその直後、少女の背後に立っていた男が一歩だけ前に出る。
気配は薄い。
だが、その一歩だけで世界の温度が変わった。
「そこまでだ」
短い声とともに、火は“存在ごと”切り取られるように消えた。
不死鳥も、炎も、最初から無かったかのように。
少女は瞬きをしただけだった。
怒ってはいない。
むしろ納得したように、軽く頷く。
「師匠の方が速いですね」
その男が誰であるかは、四王たちにも明言されなかった。
ただ一つだけ確かなのは――
この少女が“異常な魔力過多の器”であるという事実だけが、全員の認識として残ったということだった。
そしてこの出来事以降、四王会議の議事録には一行だけ、暗号めいた追記が加えられる。
――「白き魔女、観測対象として保留」
その裏に、さらに小さく記される。
――「制御不能である可能性、否定できず」




