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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第一章

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第二十五話

ミアは、一歩だけ前へ出た。


囲むゴブリンたちの視線が、一斉にその小さな影へと集まる。フードの奥に隠れた顔は見えない。それでも、その佇まいには揺らぎがなかった。


「病気の龍の薬のため――スノードロップが必要なのです」


静かに、しかしはっきりと。

ゴブリンの言葉で紡がれる。

その響きは粗野なはずの音を、不思議と澄ませていた。


ざわめきが起こる。

“龍”。その単語が、群れの中に波紋のように広がる。

ミアは続けた。


「あれは、どんな心の病にも効くでしょう」


ゆっくりと。言葉を選ぶように。


「長年の苦しみから、救ってやりたいのです」


その声音には、飾りがない。

願いそのものだった。


沈黙が落ちる。


ゴブリンたちは、互いに顔を見合わせる。

低く唸り、短い言葉を交わす。先ほどの警戒とは違う。

今は――測っている。


嘘か、本当か。敵か、そうでないか。

この小さな存在の言葉に、どれほどの重みがあるのか。


ニチカは、動かずにそれを見ていた。

剣は構えたまま。

だが、踏み込む気配はない。


(……本気だな)


ミアの言葉は、交渉のためのものではない。

説得でも、駆け引きでもない。


ただの事実。


だからこそ、強い。


ナギもまた、何も言わなかった。先ほどまでの反対は、消えている。

あの一言で、すべてを理解してしまったからだ。


リーダー格のゴブリンが、ゆっくりと一歩前に出る。

ぎし、と石の床が鳴る。

その視線は、ミアから逸れない。


長い沈黙。


やがて――低く、言葉が返される。


短い。だが、はっきりとした意思を持つ声。


ニチカには意味はわからない。

だが――空気が、変わった。


敵意が、わずかに引く。

代わりに生まれるのは、警戒を残したままの――理解。


ミアは、小さく頷いた。


交渉は、まだ終わっていない。

だが――道は、開き始めている。


暗く閉ざされていたダンジョンの奥へと続く道が、ほんのわずかに、静かに、揺らいだ。

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