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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第二章

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第四十六話

祭壇の奥には、巨大な翼を象った浮彫が据えられていた。


白銀に磨き上げられたそれは、神々しさを演出するように光を反射している。翼の中央には宝珠が埋め込まれ、淡い青白い輝きを放っていた。


脈動のように、ゆっくりと。


ミアはその光景を静かに見上げる。


――風が、閉じ込められている。


そんな感覚があった。


自然に吹き抜ける流れではない。循環し、濾過され、均され、定義された風。


ここでは風すら秩序として管理されている。


司祭は祭壇の前まで進むと、ゆっくり振り返った。


「この街は古くから風の恩恵を受けてきました。しかし、恩恵とは常に危うさを伴うものでもあります」


静かな声音が、広い神殿に反響する。


「風は気まぐれだ。時に恵みを与え、時に災厄をもたらす。だからこそ、人は祈り、導きを求めるのですよ」


ミアは黙って聞いている。

否定も肯定もしない。

司祭は続けた。


「制御されぬ奇跡は、人を惑わせます。無垢な信仰ほど危ういものはない」


その視線が、ローブ越しにミアへ向く。

柔らかい。

だが、その奥にあるものは冷静だ。


観察している。


昨日から街で起きた変化。人々の熱狂。精霊の応答。

その中心にいる少女を。


ミアはようやく口を開いた。


「……だから、風を閉じ込めたんですか?」


その一言で、神殿の空気がわずかに止まる。

司祭はすぐには答えなかった。

代わりに、祭壇へ視線を向ける。


「閉じ込める、とは少々語弊がありますな」


ゆったりとした口調。


「正しく循環させているのですよ。この街が安定して在るために」


ユエリーの視線が、宝珠へ向く。

淡く発光するそれの内部に――何かがいる。


正確には、いる気配。


薄く引き延ばされ、均され、意思まで削られているかのような風。

龍の感覚が、本能的な嫌悪を訴える。

ミアもまた、それを理解した。


だからこそ表情を変えない。

ここで感情を動かせば、相手に答えを与える。


司祭は静かに歩み寄る。


「昨日から、街の風が不安定になっております。貴女の歌が原因だとは申しません。しかし……影響はあるのでしょうな」


責めてはいない。

だが、責任の所在を確認している。

ミアは少しだけ首を傾げた。


「風が喜んでいるだけかもしれませんよ?」


その瞬間。

宝珠の光が、わずかに揺れた。


ほんの一瞬。

だが確かに。


司祭の目が細まる。

そして初めて、その笑みの奥にあるものが覗いた。


警戒。

ミアは見逃さない。


――やっぱり。

ここには、生きた風がいる。

閉じ込められ、削られ、整えられて。

それでもまだ、応えようとしている。


神殿の高窓から差し込む光が、白い床を照らす。


静寂の中。

誰にも聞こえないほど微かな音で――

祭壇の奥から、風が鳴いた。

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