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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第二章

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第四十五話

正教会の神殿は、街の中心にありながら――明確に切り分けられていた。


石畳の色合いが変わる。空気の質が変わる。


境界をまたいだ瞬間、それまで肌に触れていた風が、すっと均される。


葡萄棚や麦畑で感じた、あのやわらかな揺らぎはここにはない。


整えられた流れ。乱れのない循環。


ミアは何も言わず、その変化を受け入れる。


隣を歩くユエリーだけが、ほんのわずかに視線を細めた。


――避けていた理由が、はっきりと分かる。


ここは風が在る場所ではない。

在らされている場所だ。


神殿は白い大理石で築かれていた。


建物は大きくない。それでも装飾は過剰なほどだった。柱には精緻な彫刻が施され、天へと伸びる曲線は誇示するように広がっている。


豪奢なバロック建築。

美しい。

だがその美しさは、どこか圧を持っている。


訪れる者に、無言で形を強いるような。


正面の大扉がゆっくりと開かれる。

中へ足を踏み入れた瞬間――風が、消えた。


正確には、消えたように感じる。


空気は動いているはずなのに、触れてこない。

音もまた、吸い込まれるように静かだ。


高い天井。色硝子から差し込む光が床に落ち、規則正しい色の帯を作っている。


そのすべてが、計算され尽くしている。

ミアはゆっくりと歩を進める。


ローブの裾が石床をかすめる音だけが、わずかに響いた。


司祭は振り返らずに言う。


「いかがですかな」


誇るでもなく、試すでもなく。

ただ、確認するように。


ミアは少しだけ視線を上げた。

天井へ。

光へ。

そして――感じない風へ。


「……静かですね」


短い感想。

否定も賞賛も含まない。


だがその言葉の選び方に、司祭の口元がわずかに緩む。


「ええ。ここではすべてが整えられておりますゆえ」


整えられている。


その言葉が、この場所の本質だった。

ユエリーは一歩、ミアの後ろに位置を取る。

無意識のうちに距離を詰めている。


この空間は、外とは違う。

剣でどうにかなる類のものではないと、本能が告げている。


ミアは立ち止まった。

中央の広間。

祭壇の前。

そこに立って、初めてはっきりと理解する。


ここでは、風は応えない。


応える必要がないように、すでにすべてが決められている。


ミアは何も言わない。

ただ、静かにその場に立つ。


風のない場所で。

風を知る者として。

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