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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第二章

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第二十九話

晩餐の余韻を残したまま、二人は館の奥へと案内された。


廊下は静かで、足音だけが規則正しく響く。広場の喧騒も、食卓の気配も、ここには届かない。ただ整えられた空間と、均質な空気だけが続いている。


「今夜の部屋を用意してある」


アルヴェリオは振り返らずにそう告げた。

案内された先には、二つの扉。


それぞれ独立した客室。

当然の配慮だった。


だが――


「同室で構わぬ」


間を置かず、ユエリーが言い切った。

声音に迷いはない。

提案ではなく、決定。


使用人がわずかに動きを止める。

空気がほんの一瞬だけ揺れる。


ミアが何か言うよりも先に、その意思は明確に示されていた。


ユエリーは視線を動かさない。

ただ前を見据えたまま、続ける。


「主は、私が守る」


それだけ。

説明も、取り繕いもない。


しかし、その一言に込められた圧は十分だった。

譲らない。

その意思が、静かに場に落ちる。


ミアは小さく息を吐いた。

予想通り。

この流れになることは、最初から分かっていた。


だからこそ、口を挟まない。

無理に否定しても、余計に面倒になるだけだと理解している。


アルヴェリオはそのやり取りを、興味深そうに見ていた。


視線が、わずかにユエリーへと向く。

測るように。

そして、ほんの一瞬だけ沈黙。


次に浮かんだのは、柔らかな笑みだった。


「なるほど」


否定しない。

むしろ、そのまま受け入れる。


「では、こちらを」


示されたのは、さらに奥の扉。

開かれる。

中は広かった。ゆったりとした寝台と、余裕を持って置かれた調度が目に入る。

無駄のない、しかし明らかに格の違う設え。


夫婦用の一室。

その意味は、誰の目にも明らかだった。


ミアは一瞬だけ足を止める。

レースの奥で、ほんのわずかに思考が巡る。


――ここで否定しても、得はない。


そう判断して、何も言わずに一歩を踏み入れる。

ユエリーは当然のように後に続く。

アルヴェリオはその様子を見届けてから、軽く頷いた。


「ゆっくり休むといい」


それだけを告げる。

余計な詮索はしない。

だが、すべてを見ているような距離感。


扉が静かに閉じられる。

外の気配が、完全に遮断される。


部屋に残るのは、二人だけ。

広すぎる空間に、静けさが落ちる。


その中で――ユエリーは、何も言わずにミアの隣へと歩み寄った。


距離を詰めるのは、いつものことのように。


迷いはない。

この空間でも、変わらない。

ただ一つだけ、違うのは。


ここが、他者の領域の中にあるということだった。

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