第二十六話
中央にそびえる大風車塔は、ただの象徴ではなかった。
街を見下ろすその巨体は、そのまま領主館として機能しているらしい。近づくほどに分かるのは、風を受けて回る巨大な羽根が発する低い軋みが、建物そのものに脈打つように伝わっていることだった。
重厚な扉の前で足が止まる。
ひと呼吸。
そして開かれる。
内側に広がっていたのは、外の喧騒とはまるで切り離された空間だった。
高い天井、磨き上げられた床、無駄のない装飾。風の都らしく、どこか軽やかさを感じさせる意匠でありながら、明らかに選ばれた者のための場所という空気が満ちている。
そして――並ぶ人影。
使用人たちが、整然と列をなしていた。
まるで最初からそこに待機していたかのように、乱れのない配置で。
領主が歩を進めると、揃って頭が下がる。
音はほとんどない。
ただ、その一連の動きだけで、この館の秩序がどれほど徹底されているかが分かる。
ミアはその中を進む。
視線を上げすぎず、下げすぎず。
ローブのレースの奥で呼吸を一定に保ちながら、歩幅を合わせる。
居心地が悪い。
それを顔に出すことはないが、空気の密度が明らかに違う。広場で感じた自由な流れとは対極の、整えられた緊張。
ユエリーは、やはり無言だった。
だがその気配は、外にいたときよりもさらに鋭い。
視線は動かさずとも、周囲すべてを把握しているような静かな圧。
歩みは変わらない。
ただ、ここでも守る位置は変わらないと示すように、一定の距離を保ち続ける。
やがて案内された先。
重厚な扉が、再び開かれる。
貴賓室。
中はすでに整えられていた。
長い卓。
灯りに照らされて並ぶ料理の数々。湯気の立つ皿、冷やされた器、香りが静かに満ちている。どれもが最適な状態で待っている。
そして席。
配置は明確だった。
卓の奥に一席、その向かいに二席。
ミアと、ユエリー、そして領主。
他に客はいない。
意図的に絞られた席数。
この場がもてなしであると同時に、対話の場でもあることを示している。
ミアは一瞬だけ、その配置を見た。
誰がどこに座るか。どの距離で、どの向きで対峙するか。
すべてが計算されている。
すぐに視線を落とす。
余計な反応は見せない。
領主がゆっくりと振り返る。
「さあ、どうぞ」
穏やかな声。
しかし、ここまで来て引き返す選択肢はない。
ミアは小さく頷き、静かに一歩を踏み出した。
風の音が、かすかに遠くで鳴っている。
この場所でも、それは消えてはいなかった。




