↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
157/180

第二十五話

「皆も、踊り騒ぎ疲れたであろう。差し入れがあるから、みんなでお食べなさい」


領主が軽く右手を上げる。


その仕草は大仰でもなく、声を張り上げるでもない。にもかかわらず、確実に場の中心に届く。


次の瞬間、大階段の上から影がゆっくりと降りてきた。


香ばしい匂いが、先に広がる。


使用人たちが長い担ぎ棒を肩に載せ、豚の丸焼きを運んでくる。


こんがりと焼かれた皮が照りを帯び、滴る脂が光を弾く。吊るされたそれがゆっくりと降ろされてくる様は、まるで祝祭の締めくくりを象徴するかのようだった。


「わぁっ!」


子どもたちが真っ先に歓声を上げる。


遠慮もなく駆け寄ろうとするのを、大人たちが笑いながら制しつつ、自分たちもまた自然と手を貸し始める。


皿を運ぶ者、切り分ける準備をする者、場を整える者。


誰かに命じられたわけでもないのに、流れるように役割が生まれていく。


つい先ほどまでの観客だった人々が、今は同じ場を作る参加者へと変わっていた。


広場に、あたたかなざわめきが戻る。

食欲をそそる匂いと、笑い声と、まだ残る歌の余韻。


そのすべてが混ざり合い、夜は完全に祭りのあとの顔へと移ろっていく。


ミアはその様子を、ほんの一瞬だけ見やる。

満ち足りた空気。

風も、どこか穏やかだった。

それを確かめるように、小さく息を吐く。


――十分。


そう判断して、視線を戻す。

領主はすでに歩き出していた。

振り返らない。


ついてくることを疑わない歩調。

ミアはそれに遅れず、静かに後を追う。

ユエリーもまた、言葉なく続く。


半歩後ろ。

一定の距離を保ったまま、周囲に目を配りながら。

大階段を、一段ずつ登る。


下からは、まだ賑やかな声が聞こえてくる。

肉を切り分ける音、笑い合う声、誰かがまた歌い出す気配。


それらは次第に遠ざかっていく。

上へ行くほどに、空気は静かになる。


人の熱が薄れ、代わりに整えられた空間の気配が濃くなる。


石の感触。灯された明かり。

足音が、規則正しく響く。


広場とは別の領域へと、確実に足を踏み入れている。


ミアは何も言わない。

ただ歩く。

その背に、白いローブが静かに揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。