第二十五話
「皆も、踊り騒ぎ疲れたであろう。差し入れがあるから、みんなでお食べなさい」
領主が軽く右手を上げる。
その仕草は大仰でもなく、声を張り上げるでもない。にもかかわらず、確実に場の中心に届く。
次の瞬間、大階段の上から影がゆっくりと降りてきた。
香ばしい匂いが、先に広がる。
使用人たちが長い担ぎ棒を肩に載せ、豚の丸焼きを運んでくる。
こんがりと焼かれた皮が照りを帯び、滴る脂が光を弾く。吊るされたそれがゆっくりと降ろされてくる様は、まるで祝祭の締めくくりを象徴するかのようだった。
「わぁっ!」
子どもたちが真っ先に歓声を上げる。
遠慮もなく駆け寄ろうとするのを、大人たちが笑いながら制しつつ、自分たちもまた自然と手を貸し始める。
皿を運ぶ者、切り分ける準備をする者、場を整える者。
誰かに命じられたわけでもないのに、流れるように役割が生まれていく。
つい先ほどまでの観客だった人々が、今は同じ場を作る参加者へと変わっていた。
広場に、あたたかなざわめきが戻る。
食欲をそそる匂いと、笑い声と、まだ残る歌の余韻。
そのすべてが混ざり合い、夜は完全に祭りのあとの顔へと移ろっていく。
ミアはその様子を、ほんの一瞬だけ見やる。
満ち足りた空気。
風も、どこか穏やかだった。
それを確かめるように、小さく息を吐く。
――十分。
そう判断して、視線を戻す。
領主はすでに歩き出していた。
振り返らない。
ついてくることを疑わない歩調。
ミアはそれに遅れず、静かに後を追う。
ユエリーもまた、言葉なく続く。
半歩後ろ。
一定の距離を保ったまま、周囲に目を配りながら。
大階段を、一段ずつ登る。
下からは、まだ賑やかな声が聞こえてくる。
肉を切り分ける音、笑い合う声、誰かがまた歌い出す気配。
それらは次第に遠ざかっていく。
上へ行くほどに、空気は静かになる。
人の熱が薄れ、代わりに整えられた空間の気配が濃くなる。
石の感触。灯された明かり。
足音が、規則正しく響く。
広場とは別の領域へと、確実に足を踏み入れている。
ミアは何も言わない。
ただ歩く。
その背に、白いローブが静かに揺れていた。




