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星眼の魔女 第二部  作者: しろ
第二章

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第二十三話

「貴女を領主館に招待しよう」


ざわめきの中で、その一言は不思議なほどはっきりと響いた。押し寄せていた熱が、ほんのわずかに形を変える。


歓声でも賞賛でもない、別の種類のざわめき。

驚きと、興味と、少しの羨望。


広場にいた人々の視線が、一斉にミアへと集まる。


領主自らの招待。


それがどれほどの意味を持つのか、誰もが理解している。


ミアは動かなかった。


ローブの奥で、ほんのわずかに呼吸を整える。


言葉の選び方ひとつで、これからの立ち位置が変わる。そんな感覚だけが、静かに胸に沈んでいく。


対して、領主の声音は穏やかなままだった。


だが、そこに断られることを想定した余地はない。


選択肢を提示しているようで、実際にはひとつしかない。


貴族らしい言い方。


その場にいる誰もが、無意識に背筋を伸ばしてしまう種類の圧。


背後のユエリーの気配がわずかに変わる。

ぴたりと、空気が締まる。


視線は動かさない。表情も変えない。


だが、ほんの少しだけ細められた瞳が、確かに測っていた。


距離。力。意図。


もしもの時に、どう動くか。

それを一瞬で組み立てる静かな緊張が、彼の内側で立ち上がっている。


ミアはそれに気づいていた。

だからこそ、先に動く。


ゆっくりと、一歩だけ前に出る。

そして、小さく頭を下げた。


「光栄です」


短い言葉。

肯定。

けれど、従属ではない。


顔を上げる。

レース越しの視線が、まっすぐに領主へ向けられる。


「ただ――」


一拍。

空気が、わずかに揺れる。


「私は旅の者ですので、長居はできません。それでもよろしければ」


条件ではない。

長居はできないと、先に伝えておく。

それ以上は踏み込ませない。


柔らかく、しかしはっきりと。


領主はその言葉を受けて、わずかに目を細めた。

試されているのは、こちらだけではない。


「もちろん」


返答は早い。


「今宵、ほんのひとときで構わない」


微笑みは崩れないまま。


だが、その奥にある興味は、先ほどよりも確実に深まっていた。


ミアは小さく頷く。


そのやり取りを、ユエリーは何も言わずに見ていた。

ただ、ミアの一歩後ろに立ち、変わらぬ距離を保ったまま。


――護る位置。


それを、決して崩さない。

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