第十九話
最後の一音まで、ミアは丁寧に爪弾いた。
弦の震えがゆっくりとほどけて、空気に溶けていく。音が消えてもなお、そこに何かが残っているような感覚だけが広場に満ちていた。
人々は足を止めていた。
通り過ぎるはずだった者も、用事を急いでいた者も、いつの間にか動きを忘れて、ただその場に立ち尽くしている。何を聞いたのかを言葉にすることはできない。ただ、耳ではなくもっと別のところで触れたものがあったと、誰もがぼんやりと理解していた。
風が、遅れて動いた。
そよぐ、というには少し強く、吹き抜ける、というにはどこかまとまりのある流れ。広場の中心から円を描くように巡り、階段を撫で、像の翼をかすめ、集まった人々の間をすり抜けていく。
その流れが、やがてひとつにまとまる。
ふっと押し上げるように、上へ。
巨大な風車の羽根が、それを受けた。
ぎし、と音を立てて軋む。
回転が、わずかに強まる。
日常の延長にあるはずの風景が、その瞬間だけ、ほんの少しだけ逸脱する。
誰かが息を呑んだ。
けれど、誰も声を出さない。
ほんの一瞬、広場に静寂が落ちる。
――理解が追いつくまでの、空白。
やがて、その空白が弾けた。
拍手がひとつ。
それに続くように、またひとつ。
波のように広がっていき、気づけば広場全体が音に包まれていた。笑い声や驚きの声が混じり合い、熱を帯びていく。
さっきまでとは違う風が、そこにあった。
ミアは竪琴を膝の上に置いたまま、その様子を静かに見ている。
風はもう落ち着いている。
けれど確かに、風車の音や歌を口ずさむ人々の声に風の歌は混じっていた。




